《両替商とその妻》
緑の布を掛けた机で、男が小さな天秤で金貨を量っている。隣の妻は祈祷書の頁を指で押さえたまま、夫の手もとに目を移す。机の上には真珠と指輪、手前の丸い凸面鏡には、窓辺で本を読む赤い服の男が小さく映る。
概要
《両替商とその妻》は、クエンティン・マサイスが1514年に描いた油彩画である。縦70.5センチ、横67センチのオーク材の板に描かれ、パリのルーヴル美術館が所蔵する。館の登録題は《金貸しとその妻》で、《金を量る人とその妻》《宝石商とその妻》とも呼ばれる。ルーヴル美術館の教育資料によれば、お金を主題にした風俗画として、最も早い作品の一つである。
画面の読み解き
同資料によれば、店の中で夫婦が机に向かっている。夫は肘をついて、硬貨を量る精密な天秤を掲げ、手前には金貨の山、巻物にはめた4つの指輪、金色の分銅、黒い布の上の真珠、左には水晶と金の豪華な杯が並ぶ。妻の側にあるのは、聖母子の挿絵が描かれた祈祷書だけで、妻は頁を押さえたまま夫のほうへ顔を向ける。右上の開いた戸口の外では、2人の男が言い争う。手前の楕円の凸面鏡には、窓辺で本を読む赤い服の男と、木々や教会の尖塔が小さく、しかし正確に映っている。
技法・様式
同資料によれば、板は木目を縦にした2枚のオーク材をはぎ合わせたもので、中央に継ぎ目が見える。白い下地の上に、薄く溶いた透明な絵具の層(グレーズ)を何度も重ね、エナメルのような輝きを生んでいる。棚の本の1冊には、画家の名と年記が縦に書き込まれている。夫婦の衣服は、ヤン・ファン・エイクの時代、つまり75年ほど前の流行で描かれ、硬貨にも古い時代のものや古代ローマの金貨が含まれる。
来歴
所蔵館の目録によれば、17世紀にはアントウェルペンの美術商で収集家のピーテル・ステーフェンスが所有していたとみられ、続いて宝石商で美術商のディエゴ・ドゥアルテの手に渡った。17世紀には額に、旧約聖書『レビ記』の「正しい天秤、正しい重り」の銘があった。1806年、パリのアントワーヌ・ドラクー・ド・マリヴォーの競売で購入された。所蔵番号はINV 1444。2026年10月時点では、リシュリュー翼の展示室814「人文主義と宗教改革」に展示されている。
意義
同資料によれば、祈祷書や鏡に映る教会の尖塔はキリスト教の意味を明らかにし、天秤は最後の審判で魂を量る秤を、消えたろうそくは死を、棚の果物は原罪を思わせる。本作は、金銭への欲を戒めつつ、物質の生活と信仰の生活の釣り合いを保つよう促す絵と読める。17世紀にはよく知られた作品で、ウィレム・ファン・ハーフトの画中の画廊にも描かれ、お金を扱う風俗画の原型として、マリヌス・ファン・レイメルスワーレらに多くの模倣作を生んだ。