《牛乳を注ぐ女》
- 作者
- ヨハネス・フェルメール
- 制作年
- 1660年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 45.5 × 41 cm
- 所蔵
- アムステルダム国立美術館
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- オランダ黄金時代の絵画
左の窓から光が差す台所で、白い頭巾に青い前掛けの女性が、水差しを傾けて鉢に牛乳を注ぐ。テーブルにはパンの籠と青い水差しが並び、細い牛乳の流れのほかは、すべてが静まりかえっている。
概要
《牛乳を注ぐ女》(蘭: Het melkmeisje)は、ヨハネス・フェルメールが1660年頃に描いた油彩画である。縦45.5センチ、横41センチの小さなキャンバスで、アムステルダム国立美術館が所蔵する。台所の窓辺で、使用人の女性が水差しから鍋へ牛乳を注ぐ姿を描く。所蔵館は、牛乳の流れのほかはすべてが静止しており、何気ない日々の仕事を主題にしたこの絵の中で、女性は明るい部屋に彫像のように立つと述べる。制作年は、所蔵館の作品情報では1660年頃、同館の2022年の発表やメトロポリタン美術館では1657〜1658年頃とされる。オランダ黄金時代の絵画を代表する風俗画である。
画面の読み解き
左の窓から差し込む光の中で、白い頭巾に黄色の胴着、青い前掛けの女性がテーブルの向こうに立つ。両手で傾けた赤茶色の水差しから、陶器の鍋へ細い牛乳の流れが落ちる。テーブルには緑の布が掛かり、パンを盛った籠とちぎったパン、青い模様の石の水差しが並ぶ。窓のそばの壁には、籐の籠と銅の鍋が掛けられている。背後の白い壁には釘と釘穴が残り、右下の床際にはデルフト焼のタイルが一列に並んで、その前に木の足温器が置かれる。所蔵館の館長タコ・ディビッツは、窓ガラスのひびや壁のかびが、この絵を本当の暮らしのように見せると語っている。
技法・様式
所蔵館によれば、フェルメールは、光が物の表面でどのように戯れるかを、何百もの色の点で描き表した。パンの皮や籠の上には、光の粒のような明るい点が散っている。メトロポリタン美術館は、低い視点とピラミッド形に積み上げた構図が女性に記念碑のような存在感を与えているとし、ライデンの画家ヘラルト・ドウの細密な写実に学んだ、フェルメールの最も迫真的な画面だとする。2022年、所蔵館はマウリッツハイス美術館と共同で進めた、マクロ蛍光X線分析などによる調査の結果を発表した。女性の左腕の下には、黒い絵具で素早く引いた太い下描きの線があり、画家はまず明暗で場面を手早く描いてから細部に進んだことがわかった。頭の後ろの壁には、水差しを吊るす板と水差しが黒で描きかけられていた。右下で以前から知られていた籠は、赤ん坊を温め、おむつを乾かす柳編みの「火籠」と特定され、画家はのちにそれを足温器とタイル、床で塗り隠している。こうした描き直しの跡をペンティメントという。
来歴
最初の所有者は、デルフトの収集家ピーテル・クラースゾーン・ファン・ライフェンとみられ、メトロポリタン美術館は画家から直接買った可能性が高いとする。所蔵館によれば、その娘の夫ヤーコプ・ディシウスの競売(1696年5月16日、アムステルダム)で、本作は175ギルダーで売れた。メトロポリタン美術館によれば、このとき「きわめて良い」と記され、《デルフト眺望》に次ぐ高値をつけた。18世紀にはアムステルダムの収集家のあいだを渡り、1813年に買われて、のちにシックス家に伝わる。1908年、所蔵館はレンブラント協会の支援を受け、ほかの38点とあわせて55万ギルダーでシックス家の相続人から買い取った。所蔵番号SK-A-2344。1939年のニューヨーク万国博覧会に出品されたのち、2009年にメトロポリタン美術館で70年ぶりにアメリカで展示された。日本では2007年、国立新美術館の開館記念展で初めて公開されている。
意義
メトロポリタン美術館によれば、ネーデルラントの美術では、乳搾りの娘や台所の女中は色恋に傾きやすい者として、あからさまに、あるいはそれとなく描かれるのが伝統だった。フェルメールはここでも控えめで、タイルに描かれたキューピッドと足温器が女性の恋心をほのめかし、彼女に務めだけでなく感情もあることを示すにとどめている。同館は本作を、画家の修業時代の最後の作品の一つとみる。国立新美術館は、台所で家事に励む使用人が堂々たる存在感と永遠性をもって描かれ、30数点しか残らないフェルメールの作品の中でもとりわけ高く評価されてきたとしている。