《聖フィリポの殉教》
- 作者
- ホセ・デ・リベーラ
- 制作年
- 1639年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 234 × 234 cm
- 所蔵
- プラド美術館 (P001101)
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- スペイン・バロック絵画
青い空を背に、半裸の聖フィリポが両腕を横木に縛られ、縄で引き上げられようとしている。刑吏たちが縄を引き、脚をつかむ。聖人は天を仰いで訴えるが、天使の姿はない。人々は憐れみや無関心の顔で見守る。
概要
《聖フィリポの殉教》(西: Martirio de san Felipe)は、スペイン出身でナポリで活動した画家ホセ・デ・リベーラが1639年に描いた油彩画で、プラド美術館が所蔵する。縦234センチ、横234センチの正方形に近い大作で、右下に「スペイン人ジュゼペ・デ・リベーラ 1639年」の署名と年記がある。所蔵館によれば、主題は長く、生きたまま皮を剥がれた聖バルトロマイの殉教と考えられてきたが、1953年に美術史家デルフィン・フィッツ・ダービーが、十字架にかけられた使徒聖フィリポであることを明らかにした。
画面の読み解き
所蔵館によれば、聖フィリポが描かれることはまれで、描かれる場合も釘で打ちつけられるより縛りつけられることが多い。本作は殉教を人間の、そして宗教の悲劇として大きく劇的に見せる。聖人は長い手足を引き伸ばされ、上を仰いで訴えるが、天は閉ざされたままで天使も現れず、殉教は地上の出来事として描かれる。聖人は典拠の伝える老人ではなく、たくましい中年の、つつましい生まれの男の姿である。二人の刑吏が縄で横木を引き上げ、三人目が脚をつかむ。見物人は憐れみや無関心の表情で場面を見守る。
技法・様式
所蔵館によれば、暗く強い作風で、肌は生々しく、使い古されたように描かれる。低い視点から見上げる構図のため、画面には青い空が大きく広がる。豊かな色彩、聖人の体に厚く盛られた絵具、背景の人物の透けるような薄塗りに、リベーラの技量が示されている。プラド美術館は別の解説で、リベーラがカラヴァッジョの自然主義を極端なまでに推し進め、光と影を強く対比させた(テネブリズム)とし、1630年代からは明るく温かい色彩も取り入れたとしている。署名に「スペイン人」と添えるのも、ナポリで活動したこの画家の習いだった。
来歴
所蔵館によれば、1639年はメディナ・デ・ラス・トーレス公がナポリ副王だった時期で、リベーラの重要な後援者だった公が、おそらく国王フェリペ4世への贈り物として注文した。ただし公の1669年の財産目録には見えない。記録に初めて現れるのは1666年のマドリードの王宮アルカサルで、金の額に入れられ、銀300ドゥカードと評価された。その後、ブエン・レティーロ宮殿(1747年)、新王宮(1794年、1814〜1818年)を経て、プラド美術館に入った。
意義
所蔵館によれば、王宮の主要な謁見の間に掛けられたことは、本作が高く評価されていたことを示す。それでも、描かれた主題は一世代のうちに忘れられ、聖バルトロマイと取り違えられることになった。本作は、苦しみと老いゆく肉体を際立たせる、リベーラの厳しく凝縮された殉教図の代表例である。