《かんぬき》
薄暗い寝室で、白いシャツの若い男が金色のドレスの女を片腕に抱き寄せ、伸ばした手で扉のかんぬきをかける。女はのけぞり、その手もかんぬきへ向かう。左には深紅の天蓋のベッドが乱れ、小卓にはリンゴがひとつ置かれている。
概要
《かんぬき》(仏: Le Verrou)は、フランスの画家ジャン=オノレ・フラゴナールが1777年から1778年頃に描いた油彩画である。縦74センチ、横94センチ。寝室で若い男が女を抱き寄せながら、扉のかんぬきをかける場面を描いた風俗画である。所蔵館のルーヴル美術館によれば、ヴェリ侯爵のために描かれ、同じ画家の《羊飼いの礼拝》と対をなして、聖なる愛と俗なる愛を対比させる。
画面の読み解き
画面の右半分に強い光が差し、白いシャツに半ズボンの裸足の若者が、片腕で女の体を引き寄せ、もう一方の腕を伸ばして扉のかんぬきに手をかける。金色の絹のドレスの女はのけぞって顔をそむけ、その手もかんぬきの方へ伸びる。左の半分は暗く、深紅の天蓋とシーツの乱れたベッドが大きく占め、小卓にはリンゴがひとつ置かれる。床には倒れた椅子と、散った花が見える。2023年の東京展の報告によれば、女が恍惚としているのか抵抗しているのかは見分けにくく、かんぬきや倒れた壺、バラには性的な暗示が、リンゴには楽園を追われたイヴの罪が読み取られてきた。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。強い光は右上のかんぬきと男女だけを照らし、画面の半分を占めるベッドと天蓋の深い赤は薄暗がりに沈む。日本語版ウィキペディアによれば、画面は赤・黄・白という画家の好む三色でまとめられ、ベッドや衣装の質感の冷ややかな表現には、1780年代に盛んになる新古典主義の影響がうかがえる。
来歴
所蔵館によれば、ヴェリ侯爵の没後、1785年12月12日の競売に出た。その後、グリモ・ド・ラ・レニエールの収集(1793年4月の競売)、1887年にはノルマンディーのバイユル侯爵の城に入り、1927年まで子孫に伝わった。1933年と1969年にパリで競売にかけられ、パリのハイム画廊を経て、1974年に館が購入した。所蔵番号は RF 1974 2。現在はシュリー翼929室に展示されている。
意義
2023年に東京の国立新美術館と京都市京セラ美術館で開かれた「ルーヴル美術館展 愛を描く」では、26年ぶりの来日作品として目玉の一つとなった。同展の担当学芸員は、本作がフランス革命の約10年前、男女の恋愛のあり方が大きく変わる時代に描かれたこと、自由や快楽の肯定が教会の権威への反発に結びついていたことを指摘し、すぐには解釈できないあいまいさを本作の特徴に挙げる。日本語版ウィキペディアは、本作を、恋の場面を得意としたロココの画家の後年の代表作とする。