《イカロスの哀悼》
金色の光に包まれた海の岩の上に、大きな翼を広げた若者が力なく横たわる。裸のニンフがその頭を抱き、もう一人は竪琴を手に海のかなたを見やる。手前の水からは三人目が岩にすがって若者を見上げる。
概要
《イカロスの哀悼》(英: The Lament for Icarus)は、イギリスの画家ハーバート・ジェームズ・ドレイパーが1898年に発表した油彩画である。縦182.9センチ、横155.6センチのキャンバスで、テートが所蔵し、テート・ブリテンで展示されている。ギリシア神話の少年イカロスの死を描いた神話画で、1900年のパリ万国博覧会で金賞を受けた。
画面の読み解き
テートの展示解説によれば、イカロスの父で発明家のダイダロスは、島の牢獄から逃れるための翼を作った。だが空を飛んで有頂天になったイカロスは戒めを忘れて太陽に近づきすぎ、羽を留めていた蝋が溶けて、墜ちて死んだ。画面では、海から突き出た岩の上に、日に焼けた肌の若者が腰に白い布を巻いて力なく横たわり、背の大きな翼が左右に広がる。その頭を裸のニンフが抱き、もう一人は竪琴を手に海のかなたを見やり、手前の水からは三人目が岩にすがって若者を見上げる。若者の両の手首には腕輪がはまり、垂れた腕は翼の付け根に重なる。背後の海と断崖は夕日のような金色の光に包まれ、水平線には小さな船影がのぞく。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。テートの記録によれば、画面は縦1829ミリ、横1556ミリで、額を含めると縦2400ミリ、横2185ミリにもなる。翼の羽の一枚一枚や、白いニンフの肌と若者の日焼けした肌の対比が、細かく描き分けられている。右下には画家の署名がある。画商スティーヴン・オンピンの解説によれば、ドレイパーは友人のフレデリック・レイトンら多くのヴィクトリア朝の画家と同じく、作品ごとにチョークで人物の習作を描いた。
来歴
テートによれば、本作は1898年に発表され、同年、チャントリー遺贈基金の評議員によって買い上げられて、テートに贈られた。オンピンの解説によれば、1900年にはパリの万国博覧会で金賞を受けている。所蔵番号はN01679で、いまはテート・ブリテンの第8室「大衆のための美術 1815〜1905年」に展示されている。
意義
テートの展示解説は、1859年のダーウィンの『種の起源』が人類の進化について楽観的な見通しを示す一方で、深く暗い過去という考えももたらし、美術と文学が、起源や人類の神話の歴史、獣性と人間性の葛藤を主題として取りあげたと述べ、本作をその流れに置く。同じ部屋の解説によれば、19世紀のイギリスでは繁栄とともに美術が大衆に広く親しまれ、画家たちは群衆の目を引くために、文学や同時代の生活の主題を選んだ。