《若返りの泉》
岩山に囲まれた四角い泉に、左から車や担架で運ばれてきた老女たちが入っていく。水の中を進むうちに肌は張りを取り戻し、右岸に上がるころには若い娘の姿となる。泉の中央の柱にはヴィーナスとキューピッドの像が立つ。
概要
《若返りの泉》(独: Der Jungbrunnen)は、ドイツの画家ルーカス・クラナッハ(父)が1546年に描いた油彩画である。縦120.6センチ、横186.1センチのシナノキ材の板絵で、浸かれば若さを取り戻せるという伝説の泉を描いた寓意画である。ベルリン絵画館が所蔵する。
画面の読み解き
館の刊行物の解説(ヴィルヘルム・H・ケーラー)によれば、泉は町から遠く離れ、背景に町の塔がのぞく山と野の間にある。左の不毛な岩山は老いの苦しさを暗示し、老女たちは荒れた道を車や担架に乗せられ、あるいは背負われて運ばれてくる。泉の縁では若い女たちが服を脱ぐのを手伝い、医者は入浴する患者に望みのない最後の一瞥を投げる。ためらって縁に座り込む者や、水に引き込まれる者もいる。老女たちは水を進むうちに皺が消え、肌は張りとばら色を取り戻し、右岸では娘のように若い女となって上がってくる。紳士に迎えられて天幕で新しい衣装と装身具をまとい、緑の野で踊りや宴、恋の戯れに興じる。泉の柱に立つのは愛の女神ヴィーナスとキューピッドで、若返りの力は愛から来ることを示す。
技法・様式
クラナッハ・デジタル・アーカイヴに載る館の記録によれば、シナノキ材の板に描かれ、下の中央に、翼を垂れた蛇のクラナッハの紋章と「1546」の年記がある。額を含めると縦148.5センチ、横211.5センチ。館は父ルーカスの作とするが、1937年のベルリンのクラナッハ展や1974年のバーゼルの展覧会では、息子のルーカス・クラナッハ(子)の作とされたこともある。ケーラーは、この主題は版画や壁画にはしばしば見られるが、大きな板絵として知られるのは本作だけだと述べる。
来歴
館によれば、本作はプロイセンの王室の城館の収集にあり、1829年から1830年にかけて館に移された。1937年のベルリン、1953年のヴァイマルとヴィッテンベルク、1974年のバーゼル、2009年のベルリンの「クラナッハとホーエンツォレルン家のもとのルネサンス美術」展に出品された。所蔵番号は593。
意義
ケーラーによれば、若さを取り戻す泉の伝説は中世盛期から文学に取り込まれ、15世紀にはニュルンベルクの詩人ハンス・ローゼンプリュートの詩が広く知られた。本作の2年後には、ハンス・ザックスもクラナッハの描写を思わせる詩を書いている。泉に入るのが女だけである謎には、同時代のラブレーが答えを与える。その物語でパンタグリュエルは「第五元素の国」で、女たちを溶かしたり鋳直したりして15、6歳の姿に戻すさまを知り、男も鋳直すのかと問うと、男は若い女と過ごせば若返るのだと答えられる。クラナッハの泉は愛の泉であり、画家は古い主題を、注文主である宮廷の君主たちの好みに合わせて皮肉に語り直したと、ケーラーはみる。