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《最初の悼み》

《最初の悼み》ウィリアム・アドルフ・ブグロー
Wikimedia Commons / ブエノスアイレス国立美術館 / Public domain 拡大して見る ⌕
PLATE
作者
ウィリアム・アドルフ・ブグロー
制作年
1888年
素材
キャンバス / 油絵具
寸法
203 × 250 cm

嵐の雲の下、石の台に腰かけたアダムが、息絶えた息子アベルを膝に横たえている。イヴはその肩に顔をうずめて泣く。地面には血が流れている。人類が初めて知った死の場面である。

概要

《最初の悼み》(仏: Premier Deuil)は、ウィリアム・アドルフ・ブグローが1888年に描いた油彩画である。縦203センチ、横250センチ。アルゼンチンのブエノスアイレス国立美術館が所蔵する。旧約聖書『創世記』で、兄カインに殺されたアベルの亡骸を、父アダムと母イヴが見いだす場面を描く。日本では「アベルの死に対する嘆き」の名でも紹介される。アカデミック美術が得意とした、聖書に取材する歴史画の大作である。

画面の読み解き

画面の中央で、アダムが石の台に腰かけ、アベルの体を膝の上に横たえている。アダムは右手を自分の胸に強く押し当て、顔をイヴの頭に寄せる。イヴはその左にひざまずき、片手で顔を覆って夫の肩にもたれる。アベルの頭は画面の右へ落ち、腕は地面へ垂れて、その先の土に赤い血だまりが広がる。三人とも腰に獣の皮や粗い布を巻くだけの姿である。背景は草のまばらな荒野で、低い地平の上に暗い雨雲が垂れこめる。右奥の四角い石の台は兄弟が供え物をささげた祭壇とみられ、そこから煙が立ちのぼる。左下に「W-BOUGUEREAU-1888」の署名がある。

技法・様式

生きている二人は縦に、死んだ息子は横に置かれ、その交わりで死による断絶が示される。アダムの頭からイヴを経てアベルの顔へ下る三角形の構成は、ルネサンス以来の群像の型に従う。死んだ子を膝に抱く形は、ミケランジェロの《ピエタ》をはじめ、聖母がキリストの亡骸を抱く図像を下敷きにしている。肌は筆の跡を残さない仕上げで、青白いアベルの体と、日に焼けたアダムの腕とが描き分けられる。色は灰と土の色に抑えられ、血の赤だけが鋭く浮かぶ。

来歴

19世紀の末にアルゼンチンの収集家フランシスコ・ウリブルが購入し、のちにブエノスアイレス国立美術館の所蔵となった。所蔵番号は2770。批評家カルロス・ゴロスティアガはその自然さをたたえたが、アカデミック美術を退ける側からは、写真のような表面にとどまるとも評された。

意義

人類最初の死を、神話の出来事ではなく一組の父母の悲しみとして描いた点に本作の力がある。ブグローは五人の子のうち四人に先立たれており、とりわけ息子ジョルジュの死をこの画面に重ねる見方がある。宗教画の主題を借りながら、奇跡も天使も登場させず、家族の喪だけを縦2メートルを超える画面に残した。南米に渡ったフランス・アカデミスムの作品として、同館の19世紀ヨーロッパ絵画を代表する一点でもある。