《オーヴェルの教会》
渦を巻く濃い青の空を背に、石造りの教会が後ろ側の姿を見せて立つ。青い窓が並ぶ壁はうねり、手前の草地を挟んで道が左右に分かれる。左の道を、白い帽子の女性が歩いていく。
概要
《オーヴェルの教会》は、フィンセント・ファン・ゴッホが1890年に描いた油彩の風景画で、パリのオルセー美術館が所蔵する。館の題は《オーヴェル=シュル=オワーズの教会、後陣側からの眺め》。館の記録では、キャンバスに油彩で、縦93センチ、横74.5センチ。所蔵番号はRF 1951 42で、館の上階の36室に展示されている。館の作品解説によれば、本作は1890年6月4日から8日の間に描かれた。村の全景を描いた絵の奥に小さく見えることはあっても、この教会をまるごと描いたのは本作だけだという。
画面の読み解き
画面のほとんどを、後陣の側から見た教会が占める。頂に時計のある鐘楼がそびえ、その下に、青い窓の並ぶ灰色の石の壁と、右手の橙色の屋根が続く。空は濃い青で、絵の具の渦がいくつも重なっている。教会の手前には白や黄の花の咲く草地が広がり、砂色の道がそこで左右に分かれて建物を両側から回り込む。左の道には、白い帽子をかぶり青い服を着た女性が、こちらに背を向けて歩いている。画面の左右の端には、木々と赤い屋根の家がわずかにのぞく。
技法・様式
館の解説によれば、この教会は13世紀に初期ゴシックの様式で建てられ、両脇に二つのロマネスクの礼拝堂を備える。それがゴッホの筆のもとで燃え立つような建物に変わり、地面からも、溶岩や泥の奔流のように建物をつかむ二本の道からも、いまにも離れていきそうに見える。館は、少し後にクロード・モネが描いたルーアン大聖堂の連作と比べると、ゴッホの取り組み方が印象派とどれほど違うかが分かると述べる。モネと違って、ゴッホは建物に当たる光の戯れの印象を写そうとはしなかった。教会は見分けられるものの、本作が見る人に差し出すのは現実の忠実な像よりも、むしろ教会の「表現」であり、その手段はフォーヴィスムや表現主義の画家たちの仕事を先取りしているという。
来歴
館の解説によれば、ゴッホは南フランスのアルル、続いてサン=レミ=ド=プロヴァンスの療養院で過ごしたのち、パリ近郊の村オーヴェル=シュル=オワーズに移った。兄の健康を案じた弟テオの勧めで、自らも絵を描き多くの画家と親しかった医師ガシェの診療を受けるためである。1890年5月21日の到着から7月29日の死までの約2か月に、ゴッホは70点ほどの絵を描いた。館の来歴によれば、本作はその医師ポール・ガシェの収集に入り、息子のポール・ガシェが1951年まで持っていた。国立美術館は1952年、息子ガシェの協力とカナダの匿名の寄付を得て本作を購入した。ジュ・ド・ポーム美術館に置かれたのち、1986年にオルセー美術館に移っている。
意義
館の展覧会歴によれば、本作は1953年にハーグ市立美術館の「ファン・ゴッホ」展に出品され、1954年から1955年にはパリのオランジュリー美術館の「ファン・ゴッホとオーヴェル=シュル=オワーズの画家たち」展に並んだ。1999年には、パリ・ニューヨーク・アムステルダムを巡回したガシェ医師の収集の展覧会に、2014年にはオルセー美術館の「ファン・ゴッホ/アルトー 社会が自殺させた者」展に出品されている。2023年には、ゴッホのオーヴェル時代を取り上げた展覧会で、アムステルダムのファン・ゴッホ美術館と、続いてオルセー美術館に展示された。