《白のシンフォニー No.1:白衣の少女》
白いカーテンの前に、白い服の女が正面を向いて立つ。手には白い百合を提げ、足もとには口を開いた狼の毛皮が敷かれている。画面はほとんど白だけでできている。
概要
《白のシンフォニー No.1:白衣の少女》(英: Symphony in White, No. 1: The White Girl)は、ジェームズ・マクニール・ホイッスラーが1861年から1863年にかけて描いた油彩画である。縦213センチ、横107.9センチ。ワシントン・ナショナル・ギャラリーが所蔵する。モデルは画家の恋人であり制作の協力者でもあったアイルランド出身のジョアンナ・ヒファーナン。1863年の落選展でもっとも人を集めた一点である。
画面の読み解き
白い花模様のカーテンを背に、白いモスリンの服の女が正面を向いて立つ。赤みがかった長い髪を下ろし、視線はわずかに脇へそれている。右手には白い百合が一輪、茎を下に向けて握られる。足もとには狼の毛皮が敷かれ、口を開いた頭が画面の右下でこちらを向く。毛皮の下は青い模様の絨毯で、画面の中で唯一はっきりした色を持つ。左下の隅には小さな花が落ちている。画面の右上に「Whistler. 1862」の署名がある。
技法・様式
白の上に白を重ね、わずかな青みと灰色の差だけで服とカーテンと肌を描き分ける。輪郭線はほとんど用いられず、調子の移り変わりがそのまま形をつくる。人物は装飾の一部のように画面へ収められ、物語を読み取る手がかりは意図して取り除かれている。のちに画家が題名へ「シンフォニー」の語を持ち込み、主題ではなく色の調和を見るよう求めたのは、この画面の性格をそのまま言い当てている。
来歴
1862年にロイヤル・アカデミー展に落選し、ロンドンのバーナーズ・ストリートの画廊で「白衣の女(The Woman in White)」の題で公開された。ウィルキー・コリンズの同名の小説との関係をほのめかすこの題を画家は嫌い、無関係であると新聞に表明している。1863年にはパリのサロンにも落選し、5月15日に開いた落選展へ回された。借金の担保としてパリに残されたのち、1866年に異母兄ジョージ・ウィリアム・ホイッスラーが買い取り、1867年のパリ万国博覧会に出品されて損傷、1872年に修復された。1875年にアメリカへ送られ、ハリス・ホイットモア・コレクションを経て1943年に同館へ入った。所蔵番号1943.6.2。
意義
落選展では、同じ会場にあったマネの《草上の昼食》を上回る人だかりができたと伝えられる。批評家ポール・マンツは『ガゼット・デ・ボザール』でこれを「異端者たちのサロンの白眉」と呼び、「白のシンフォニー」という言い方をした。画家がその語を自作の題に用いるのは後年だが、主題を捨てて色の調和だけを見せるという立場はここに始まる。百合を純潔、狼の頭を失われた純潔と読む解釈は当時から繰り返されたが、画家自身は意味づけを否定した。芸術のための芸術を掲げる唯美主義の出発点に置かれる作品である。