《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》
暗い背景の前に、果実と野菜と花でできた男の胸像が浮かぶ。鼻は洋ナシ、頬は赤いリンゴ、唇はサクランボ。髪にはブドウと麦の穂が茂り、胸の前には色とりどりの花が帯のように並ぶ。
概要
《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》(Vertumnus)は、ミラノ出身の画家ジュゼッペ・アルチンボルドが1591年に描いた油彩画である。縦70センチ、横58センチの板に描かれ、スウェーデンのスコークロステル城が所蔵する。神聖ローマ皇帝ルドルフ2世を、ローマ神話の季節と変化の神ウェルトゥムヌスに見立てた肖像画である。
画面の読み解き
暗い背景の前で、胸から上の男がこちらを見る。所蔵館によれば、この肖像は果実と野菜と花で組み立てられている。鼻は洋ナシ、ふくらんだ頬は赤いリンゴ、眉はエンドウの莢で、唇には2粒のサクランボ、あごにはクリのいがが置かれる。額には緑のカボチャ、髪にはブドウやスモモ、ザクロ、洋ナシ、麦の穂が茂る。画面右の耳のあたりにはトウモロコシがあり、その下に耳飾りのようにイチジクが下がる。胴も大きなカボチャで、肩はキャベツの葉やアーティチョーク、ネギに覆われる。胸の前には、ユリやバラなどの花と赤いトウガラシが帯のように並ぶ。所蔵館は、あらゆる季節の花と果実が並ぶことが、皇帝の治世のもとで黄金時代が戻ったことを表すとする。
技法・様式
板に油彩で描かれる。所蔵館によれば、本作は画家の《四季》の連作に対応する皇帝の寓意画で、皇帝をすべての季節を治める者として示す。ワシントンのナショナル・ギャラリー・オブ・アートの2010年の展覧会の解説によれば、ウィーンの宮廷で描いた《四季》と《四大元素》の連作はみな横顔の胸像だったが、本作の顔はほぼ正面を向く。同じ解説は、アルチンボルドが動植物を描く精密さを、同時代の植物図譜に通じるものとしている。
来歴
スコークロステル城によれば、ミラノに戻っていたアルチンボルドが、かつての雇い主ルドルフ2世に贈った作品で、友人の文人グレゴリオ・コマニーニの説明の詩を添えて届けられた。同展の解説によれば、送られたのは1591年である。1612年に皇帝が没したのちもプラハにあり、1621年と1635年の皇帝の収蔵品目録に載る。1648年、ケーニヒスマルクの率いるスウェーデン軍がプラハを襲って城を占領し、本作は戦利品としてストックホルムへ運ばれた。ケーニヒスマルクの運搬目録の351番に「果物の顔」とある。女王クリスティーナの好みに合わなかったらしく臣下に渡り、ペール・ブラーエ(子)の遺産目録にボーゲスンド城の品として現れる。1828年から1845年のあいだにマグヌス・ブラーエがスコークロステル城へ移し、同じ画家の《司書》とともに図書室に掛けた。所蔵番号は11615_SKOである。
意義
コマニーニは詩で「どんな美しさよりも美しい醜さがある」とうたい、本作が宮廷に大きな笑いを呼んだと伝える。しかし19世紀末には、城の案内書を書いた美術史家オロフ・グランベリが、《司書》とあわせて、芸術としては劣るが文化史的に興味深いと評した。転機は1987年で、ポントゥス・フルテンがヴェネツィアのパラッツォ・グラッシの展覧会「アルチンボルド効果」に本作を出品した。城は、今日では世界でもよく知られた絵の一つとなったとする。