《エミール・ゾラの肖像》
書き物机の前に座った作家が、横を向いて大きな本を開く。机には青い表紙の小冊子と羽根ペン、インク壺。壁には《オランピア》の複製とベラスケスの版画、力士の浮世絵が並び、左には屏風が立つ。
概要
《エミール・ゾラの肖像》は、エドゥアール・マネが1868年に描いた油彩の肖像画で、パリのオルセー美術館が所蔵する。館の題は《エミール・ゾラ》。館の記録では、キャンバスに油彩で、縦146センチ、横114センチ(額込みで縦168.2センチ、横135.6センチ)。所蔵番号はRF 2205で、館の1階14室にある。モデルは、のちに自然主義の小説家として知られる作家エミール・ゾラで、館は本作を、名声を求めていた画家と作家の、変わらぬ友情の始まりを刻んだ肖像としている。
画面の読み解き
館の解説によれば、ゾラは仕事机の前に座り、本を手にしている。おそらくマネがよく参照したシャルル・ブランの『画家列伝』である。机の上のインク壺と羽根ペンは作家の仕事を表す。机には、ゾラがマネを論じた記事を1867年にまとめた、青い表紙の薄い小冊子が、題がよく見える形で置かれている。壁には、1865年のサロンで激しい騒ぎを起こし、ゾラがマネの最高傑作とみなした《オランピア》の複製が掛かる。その後ろには、画家と作家がともに好んだスペイン美術を示す、ベラスケスの《バッカスの勝利》の版画がある。さらに、二代歌川国明による力士の浮世絵が飾りを仕上げ、画面の左には日本の屏風が立っている。
技法・様式
館によれば、制作はマネのギュイヨ通りのアトリエで行われ、背景はこの機会のために、ゾラの人柄や趣味、仕事を表す品々で整えられた。肖像画でありながら、モデルの持ち物をまわりに並べてその人となりを語らせる構成である。館は、浮世絵と屏風が示す極東の美術が、ヨーロッパの絵画の遠近法と色彩の考え方を一変させ、新しい絵画の誕生に中心的な役割を果たしたと述べ、左の屏風はそのことを思い起こさせるという。
来歴
館の来歴によれば、本作はマネからゾラに贈られ、1925年までゾラ夫妻の収集にあった。1918年に国が、ゾラの未亡人の用益権を残したまま、ルーヴル美術館のための寄贈として受け入れた。1925年に用益権が終わってルーヴル美術館に入り、1947年から1986年まではジュ・ド・ポーム、1986年にオルセー美術館に移った。
意義
館の解説によれば、セザンヌの幼なじみだったゾラは早くから絵画に関心をもち、とりわけ公の批評から退けられた画家たちに目を向けた。1866年にマネを論じる記事を書き、翌年、パリ万国博覧会のかたわらでマネが個展を開いたときにも再び擁護した。伝統を重んじる人々から批判されていたマネを、ゾラは未来の巨匠の一人で、ルーヴル美術館にこそふさわしい画家とみなした。その礼に、マネはゾラの肖像を描くことを申し出た。本作は1868年のサロンに出品され、館の記録には56件の展覧会歴が残る。