《エレオノーラ・ディ・トレドと息子ジョヴァンニ》
深い青の地を背に、ザクロの文様を織り出した白と金の錦の衣をまとう公妃が、真珠の首飾りをかけて静かに座る。その右手は、かたわらに立つ幼い息子の肩にそっと置かれている。
概要
《エレオノーラ・ディ・トレドと息子ジョヴァンニ》(伊: Ritratto di Eleonora di Toledo col figlio Giovanni)は、アーニョロ・ブロンズィーノが1545年頃に描いた油彩画である。縦115センチ、横96センチの板絵で、ウフィツィ美術館が所蔵する。館は、コジモ1世・デ・メディチの妃の輝きを人々の記憶に刻んだ、画家の最高傑作の一つとする。マニエリスムの宮廷肖像の代表作である。
画面の読み解き
フィレンツェ公妃エレオノーラは、膝の上までの姿で、深い青の地を背に座る。白地に金と黒でザクロの文様を織り出した錦の衣をまとい、真珠の首飾りと網状の髪飾りをつけ、右手をかたわらの幼い次男ジョヴァンニの肩に置く。ウフィツィ美術館の解説によれば、輝く肌と豪華な宝石、きらびやかな衣装のエレオノーラは、目を引く青の背景から浮かび上がり、神聖な気配をまとって、肖像を一種の顕現のようにしている。1543年生まれのジョヴァンニの姿は、メディチ家の血統を受け継がせた公妃の、王朝における役割をたたえる。次男は、ロレンツォ・イル・マニーフィコの次男で、1513年に教皇レオ10世となった同名の先祖と同じく、聖職の道を歩むことが定められていた。
技法・様式
板に油彩で描かれる。同館によれば、広い青の面には、当時最も高価な顔料で、イタリア美術では聖母のマントに使われてきたラピスラズリの青、ウルトラマリンが用いられ、聖母への信心のしるしともなっている。衣は、フィレンツェの織物業の特産で典礼の祭服にもよく使われた、最も高価な絹の錦である。繰り返されるザクロと松かさの文様は、復活と再生を表すキリスト教の象徴で、公妃の多産をほのめかす。膝の上までを描く構図は、ラファエロが《レオ10世の肖像》で用いた新しい方法にならったもので、肖像に威厳と権威を与えている。
来歴
同館によれば、ブロンズィーノは1545年の夏に本作を描いていた。そのころエレオノーラはすでに3度、コジモの不在のあいだ国政を預かっていた。ブロンズィーノは1539年のコジモ1世とエレオノーラの婚礼の装飾に加わったのを機にメディチ家の宮廷画家となり、公妃を、長男フランチェスコと、次男ジョヴァンニとそれぞれ組み合わせた二つの二重肖像を描いている。2023年にはピッティ宮殿で公妃をめぐる展覧会が開かれ、本作がその鍵となる作品とされた。いまはウフィツィ美術館の「王朝の間」(D15)に展示されている。所蔵番号は1890年目録の748番。
意義
館は、本作がよきキリスト教徒の妻と母の姿だけを示すものではないと強調する。エレオノーラは政治家であり、有能な管理者で、公の最も重要な協力者だった。ブロンズィーノは彼女の人柄のすべてをとらえ、妻であり母であると同時に、力強く自立した女性の姿を描き出したという。