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《ネプトゥヌスに扮したアンドレア・ドーリア》

Ritratto di Andrea Doria come Nettuno
《ネプトゥヌスに扮したアンドレア・ドーリア》アーニョロ・ブロンズィーノ
Wikimedia Commons / ブレラ美術館 / Public domain 拡大して見る ⌕
PLATE
作者
アーニョロ・ブロンズィーノ
制作年
1545–1546年
素材
キャンバス / 油絵具
寸法
199.5 × 149 cm

ブロンズィーノが1545〜1546年頃に描いた油彩画。ジェノヴァの提督アンドレア・ドーリアを、帆柱の前に立つ裸の海神ネプトゥヌスとして描いた寓意的な肖像で、コモの文人パオロ・ジョヴィオが自らの肖像コレクションのために注文した。

概要

《ネプトゥヌスに扮したアンドレア・ドーリア》(伊: Ritratto di Andrea Doria come Nettuno)は、フィレンツェの画家アーニョロ・ブロンズィーノが1545〜1546年頃に描いた油彩画である。ジェノヴァの提督アンドレア・ドーリアを、ローマ神話の海神ネプトゥヌスの姿で、縦2メートル近い画面に裸の半身像として描いている。甲冑姿で描かれるのが普通だった将軍の肖像のなかで、実在の権力者を裸の神として表した異色の作品であり、ミラノのブレラ美術館が所蔵する。

来歴

注文主は、コモ出身の人文学者で歴史家のパオロ・ジョヴィオである。ジョヴィオはコモ近郊のボルゴヴィーコに、古今の名士の「真の肖像」を集める美術館を設けようとしており、その一点としてブロンズィーノに本作を依頼した。作品はジョヴィオの家に伝わり、1898年に相続人アルフレード・ロヴェッリからブレラ美術館が購入した。ブロンズィーノの真筆であることに異論はないが、制作年には諸説があり、館は1545〜1546年頃としている。

画面の読み解き

暗い背景に、船の帆柱と帆の一部が描かれ、帆柱には「A. DORIA」の文字が記されている。ドーリアは帆柱を背に、胴を左に向けながら頭を右へひねり、遠くを見つめる。波のように垂れる長い髭は、ミケランジェロの《モーセ》を思わせる。右手には海神のしるしの三叉の矛を持ち、左手でつかんだ帆布がかろうじて腰を覆う。館の解説によれば、右手には元は櫂が握られており、のちに三叉の矛に描き替えられた。櫂は、ドーリアが率いたガレー船の艦隊を象徴していた。

1466年生まれのドーリアは、フランス王フランソワ1世に仕えたのち、1528年に神聖ローマ皇帝カール5世の側に移ってジェノヴァの実権を握り、皇帝の提督として地中海でオスマン帝国や海賊と戦った。制作当時は80歳近かったが、老いを隠さない顔と、なお力のみなぎる体が一つの像に組み合わされている。

技法・様式

カンヴァスに油彩で描かれている。宮廷の肖像画では鮮やかな色と、磁器のように滑らかな仕上げで知られるブロンズィーノだが、本作では褐色と灰色を中心とした抑えた色調を選び、暗い背景から浮かび上がる肌の明るさで人物を際立たせている。彫刻のように量感のある体は、胴と頭の向きをずらしたマニエリスムらしいねじれた姿勢で表される。古代彫刻が神々や英雄、ローマ皇帝を裸で表した英雄的裸体の慣習を、同時代の人物の肖像画によみがえらせた点に、この絵の新しさがある。

意義

ブロンズィーノは、若いコジモ1世・デ・メディチをギリシア神話の楽人オルフェウスの姿で描いた作品(フィラデルフィア美術館)も残しており、実在の人物を神話の姿で表す寓意的な肖像に、独自の境地を開いた。本作の裸の海神の姿は、海の覇者としてのドーリアの力と威厳を、古代の神々の言葉で語っている。ジョヴィオの肖像コレクションは後に散逸したが、コジモ1世が画家クリストファーノ・デッラルティッシモに写させた模写の連作は、ウフィツィ美術館に伝わっている。