《人生の諸段階》
- 作者
- カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ
- 制作年
- 1834–1835年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 72.5 × 94 cm
- 所蔵
- ライプツィヒ造形美術館
- 時代
- 新古典・ロマン
- 流派
- ロマン主義
夕暮れの浅い入り江に五隻の帆船が浮かび、岸には五人の人影がいる。手前で背を向けて立つ毛皮帽の老人は画家自身とされる。人と船が一つずつ重ねられ、沖へ遠ざかる船が旅の終わりを告げる。
概要
《人生の諸段階》(独: Die Lebensstufen)は、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒが1834年から1835年ごろに描いた油彩画である。縦72.5センチ、横94センチ。ライプツィヒ造形美術館が所蔵する。岸辺の五人と沖の五隻を対応させ、人の一生を航海になぞらえた寓意画で、画家の晩年を代表する一点である。
画面の読み解き
夕暮れの海辺。手前の低い岬に五人がいる。もっとも手前でこちらに背を向けて立つのは、厚い外套と毛皮の帽子の老人で、杖に寄りかかっている。その先にシルクハットの若い男、さらに奥には夏の装いの若い女と二人の子どもが半円をつくる。男の子はスウェーデンの小旗を掲げ、女の子がそれに手を伸ばす。沖には五隻の帆船がある。岸に近い二隻は小さく、浅い水の上でまだ航海を始めたばかりに見える。中央の大きな帆船は帆を畳みかけて港へ戻り、遠い二隻は水平線の夕焼けに溶けてゆく。空は上が青紫で、水平線に近づくほど黄から橙へ変わる。左手前の砂地には網を支える棒が斜めに立ち、木の樽が転がっている。
技法・様式
背を向けた人物を手前に置いて見る者を画面へ導くリュッケンフィグーアが、ここでも構図の中心にある。人物は小さく、画面の大半を空と海が占める。輪郭は夕闇にゆるみ、黄から青紫への階調が全体をつなぐ。船の帆と人の並びがどちらも五つで、しかも岸に近いものほど小さいという形に置かれているため、見る者は両者を自然に重ね合わせる。晩年の作に共通して、筆は薄く、色は乾いた明度差で組み立てられている。
来歴
描かれた場所は、画家の故郷グライフスヴァルト近くのウトキークと考えられている。グライフスヴァルトは1815年までスウェーデン領ポンメルンに属しており、子どもの持つ小旗はその記憶に通じる。画家の息子はスウェーデン王にちなんでグスタフ・アドルフと名づけられていた。現在はライプツィヒ造形美術館にあり、所蔵番号はG 5161。制作年は資料によって1834年ごろとも1835年ごろとも記される。
意義
五人の人物は、古くから画家自身とその家族――甥のヨハン・ハインリヒ、二人の娘、息子――と見なされてきた。フリードリヒはこの絵の数年後、1840年に没する。沖へ去る船と港へ帰る船が同じ画面に並ぶことで、旅立ちとも帰着とも取れる終わり方が与えられ、自らの死と人生の移ろいへの省察として読まれてきた。ロマン主義の風景画が、目に見える自然を通して見えないものを語ろうとした試みの、最も静かな到達点の一つである。