《ヴェールを被る婦人の肖像》
暗い背景の前で、ヴェールをかぶった若い女性が体を斜めに向け、右手を胸に当ててこちらを見る。白い絹の衣の大きな袖が手前にふくらみ、金の縁取りのひだが光を受けて輝く。首には金の首飾りが光る。
概要
《ヴェールを被る婦人の肖像》(伊: La Velata、ラ・ヴェラータ)は、イタリアの画家ラファエロ・サンティが1512年から1515年頃に描いた油彩の肖像画である。縦82センチ、横60.5センチ。ヴェールをかぶった若い女性を半身で描き、フィレンツェのピッティ宮殿にあるパラティーナ美術館が所蔵する。
画面の読み解き
館の解説によれば、髪にかけたヴェールは結婚した女性であることを示すが、モデルが誰かはわかっていない。女性は体を斜めに向け、片方の肩を後ろに引く。レオナルド・ダ・ヴィンチがすでに肖像で試みた構えで、空間の奥行きと光と影の移ろいを広げている。暗い背景が、ばら色の肌と明るい絹の衣を引き立てる。右手を胸に当てる仕草は献身や愛の表現かもしれないが、手前に張り出したもう一方の腕は、袖の素材の豊かさとひだに当たる光を見せるための工夫だという。館は、絵の主役はむしろ衣であり、少し奥に引いて半ば陰になった顔は、深く震えるような黒い瞳でモデルの内面を語ると述べる。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。館によれば、ラファエロが1508年にフィレンツェからローマへ移ったのちの作である。日本語版ウィキペディアによれば、構えは《モナ・リザ》に倣い、ラファエロは初期からレオナルド風の構えを繰り返し用いた。本作では像の幅を広げてくつろいだ姿を空間に置き、線の明快さよりも光と色の関係を追っている。
来歴
館の解説によれば、ジョルジョ・ヴァザーリはフィレンツェの商人マッテオ・ボッティの家でこの絵を見て、ラファエロが生涯愛したマルゲリータ・ルーティ、通称フォルナリーナの肖像だと書いた。館は、豪華な衣装と宝飾から、注文で描かれた若い貴婦人の肖像と考えるほうが自然だとする。日本語版ウィキペディアによれば、1619年、ボッティ家の最後の相続人マッテオがトスカーナ大公コジモ2世に財産を譲り、絵はメディチ家に入った。のちに作者が別の画家と誤って記されたことでナポレオンの持ち出しを免れ、1839年にヨハン・ダーフィト・パサヴァンが再びラファエロの作とした。現在は「ユピテルの間」に展示されている。
意義
日本語版ウィキペディアによれば、顔立ちが《システィーナの聖母》に似ていることや、《ラ・フォルナリーナ》と同じ意匠の真珠の髪飾りを着けていることから、フォルナリーナを描いたとする説が根強い。一方で、ローマの名の知れない貴婦人とみる研究者もいる。館は本作を、ラファエロの肖像画の到達点の一つに数えている。