《ヤエルとシセラ》
- 作者
- アルテミジア・ジェンティレスキ
- 制作年
- 1620年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 86 × 125 cm
- 所蔵
- ブダペスト国立西洋美術館 (75.11)
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- イタリア・バロック絵画
暗い室内で、腕まくりをした黄色い衣の女性が片手で槌を高く振り上げ、もう一方の手で杭を、床に眠る男のこめかみに当てる。男は赤い胴着と青い衣で腕を枕に横たわる。左の柱の台座には文字が刻まれている。
概要
《ヤエルとシセラ》は、イタリアの画家アルテミジア・ジェンティレスキが1620年に描いた油彩画で、ブダペスト国立西洋美術館が所蔵する。館の記録では縦86センチ、横125センチのキャンバス。ロンドン・ナショナル・ギャラリーは、2020年の展覧会に寄せた解説で、画家が27歳のときに描いた、女性の決意を宙づりのまま永遠にとどめた、忘れがたい作品と紹介している。
画面の読み解き
同館によれば、物語は旧約聖書の『士師記』にもとづく。カナンの軍の司令官シセラは、イスラエルとの戦いに敗れて逃げ、ケニ族の既婚の女性ヤエルに乳と宿を与えられる。シセラが眠ると、ヤエルは天幕の杭を彼の頭に打ち込んだ。画面のヤエルは、堅実な商人の妻が着るような17世紀風の簡素な衣をまとい、髪をきちんと編んで留め、穏やかな、ほとんど優しい表情で手順どおりに仕事に取りかかる。アルテミジアの多くの女主人公と同じく、袖をまくって力強い腕を見せ、槌を高く振り上げる。
技法・様式
同館によれば、シセラは迫る運命に気づかず眠り込み、色鮮やかな衣装は古代の軍装を想像で再現したものである。青白い素足は無防備さを強調し、剣の柄頭の獅子の頭は、なすすべもなく成り行きを見守るかのようだ。この主題を横長の画面で、しかも暗い背景(テネブリズム)の前に描いた先例はわずかで、画面の大きな空白が、振り下ろされようとする槌の劇的な緊張を強めている。
来歴
同館によれば、画家は背景の柱の台座に、石に刻んだかのようにラテン語で「ARTEMITIA. LOMI FACIBAT M.D.CXX.(アルテミジア・ロミ作、1620年)」と署名した。ロミはフィレンツェで活動した頃に用いたトスカーナの家名で、本作はおそらく1620年にローマへ戻ってから描かれたが、名声を築いた名を記したとみられる。所蔵番号は75.11。
意義
ナショナル・ギャラリーは、署名を槌の弧の中、ヤエルの姿の隣に置くことで、画家が自らをこの有能な女主人公に重ねるよう見る者に促している、と述べる。アルテミジアは、《ホロフェルネスの首を斬るユディト》など、男性を倒す旧約の女性たちを繰り返し描いた。