《ほつれ髪の女》
褐色の小さな板の上で、うつむいた若い女性が目を伏せ、かすかにほほえむ。白く浮かぶ顔は細やかに仕上げられ、そのまわりの波打つ髪は、すばやい筆の線のままふくらみ、肩へ流れ落ちる。
概要
《ほつれ髪の女》は、イタリアの画家レオナルド・ダ・ヴィンチが1492年から1501年頃に描いた小さな板絵で、パルマ国立美術館が所蔵する。館の記録では、鉛白に鉄系の顔料と辰砂を加えて描かれ、縦24.7センチ、横21センチ。所蔵番号はGN 362で、館の展示区画「トスカーナと中部イタリアの絵画 1200〜1500年」に展示されている。館の題は「若い娘の頭部、通称『ほつれ髪の女』」。
画面の読み解き
館の解説(ルイーザ・ヴィオラ、1997年の館の目録)は、ヴァチカン図書館のウルビーノ写本に伝わるレオナルドの『絵画論』の一節が、今もこの小さな板の最良の説明だとする。レオナルドは、若い顔のまわりの髪を、描かれた風とたわむれさせ、さまざまにうねらせて優雅に飾るよう説き、髪を膠で固めて顔をガラスで覆ったように見せる人々を戒めている。画面では、うつむいてあいまいにほほえむ顔が仕上げられ、少しはれたまぶたからは、まなざしがかろうじてのぞく。一方、ほとんど見えないリボンでかろうじて留められた髪は、より大胆な筆づかいで頭のまわりにふくらみ、蛇のようにうねって肩に落ちる。館は、この仕上げた部分と仕上げない部分のたわむれを、精妙でまったく「現代的」なものと評している。
技法・様式
館によれば、本作は、ひとつの考えを目に見える形にしたもの、様式の習作、それ自体に価値をもつ独立した作品であり、下絵や仕事の素描ではなかった。単色ではあるが板に描かれた「絵」なので、素描やレオナルドの頭部の習作とは分けて考えるべきだが、研究ではしばしば「下描き」のようなあいまいな言葉で呼ばれてきた。何のための習作かについても、《レダ》、ロンドンの《聖アンナ》、ナショナル・ギャラリーの《岩窟の聖母》の第2作などの説が入れ替わってきた。館の記録は、本作をレオナルドの作品群のなかで類例のない一点とする研究者の一致した見方を紹介している。
来歴
館によれば、本作は画家ガエターノ・カッラーニの収集にあった。1826年、パオロ・トスキが、パルマ美術アカデミーの会長にカッラーニの収集の購入を提案した手紙の目録で、本作を「明暗だけで描いた聖母の頭部」と記し、1839年6月7日のアカデミーの臨時会議で購入が決まった。1896年、館長コッラード・リッチは画家のアトリエに由来することから真作かどうかに疑いを示したが、その師アドルフォ・ヴェントゥーリが1924年に改めてレオナルドの作と断じ、翌年には、1531年にマントヴァのゴンザーガ家の収集にあったと記録されるレオナルドの作品と同じものとする説を出した。
意義
館によれば、カルロ・ペドレッティはこのゴンザーガ家説を数多くの資料で裏づけ、本作をイザベラ・デステの注文とし、様式の点からも1508年頃の作とする見方を示した。館は、本作が古くからロンバルディアにあったことを、各地に残る古い模写や、レオナルドに洗練された影響を受けたベルナルディーノ・ルイーニの女性像、そしてマントヴァで画業を始めた若いコレッジョの作品に響くレオナルドの手法が、間接的に示しているとする。