《リューゲン島の白亜岩》
白い断崖が切れ落ちた先に、静かな海が広がる。手前の草地には赤い服の女と、崖をのぞき込む男、木に寄りかかって海を見る男がいる。1818年、フリードリヒが新婚旅行で訪れたバルト海のリューゲン島を主題とする。
概要
《リューゲン島の白亜岩》(独: Kreidefelsen auf Rügen)は、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒが1818年に描いた油彩画である。縦90.5センチ、横71センチ。スイスのオスカー・ラインハルト美術館 アム・シュタットガルテンが所蔵する。同年1月にカロリーネ・ボマーと結婚したフリードリヒが、夏の新婚旅行でリューゲン島を訪れた直後の作で、ロマン主義の風景画に人の営みが差し込んだ珍しい一点である。
画面の読み解き
画面の左右から木の枝と草が垂れ下がり、中央を心臓のような形に縁取る。その内側で白亜の岩が鋭く切れ落ち、その向こうに青灰色の海が水平に広がって、白い帆が二つ浮かぶ。前景の草地には三人がいる。赤い服の女は妻カロリーネとみられ、右手で崖下を指す。青い上着の男は腹ばいになって縁から下をのぞき込み、脱いだ帽子と杖が傍らに転がる。右の灰緑の上着の男は木の幹に身を預け、背を向けて海を見る(リュッケンフィグーア)。二人の男は画家自身とその兄弟クリスティアンに擬せられてきた。
技法・様式
奥行きを一本の軸で追わず、前景の草地、白い岩、海と空という三つの帯を画面に平行に重ねる。遠近は色の寒暖だけで示され、海の面は上へ行くほど淡くなる。岩の白は下塗りを生かした薄い層で置かれ、緑の草と赤い服の小さな面が強い対比をつくる。描かれた場所は島のクライネ・シュトゥッベンカンマーとされ、右の岩壁は別の崖の写生から組み合わせたものである。実景をそのまま写さず、素描を画室で組み替える方法は画家が生涯用いた。
来歴
1903年にベルリンのルードルフ・レプケ美術競売所に現れたときは、カール・ブレッヘンの作とされていた。1920年、美術史家クルト・カール・エーバーラインがフリードリヒの作と認める。収集家ユリウス・フロイントの所蔵を経て、1930年にスイスの収集家オスカー・ラインハルトが5万ライヒスマルクで購入し、そのコレクションとともに現在の美術館に収まった。所蔵番号165。
意義
崖の縁という危うい場所に、結婚したばかりの画家と身近な人々が置かれている。遠くを望む視線と、深みをのぞき込む視線が同じ画面に同居し、希望と不安が並ぶ構図として読まれてきた。三人を愛・信仰・希望の三つの徳に重ねる解釈もある。人の尺度を超えた自然を前にした崇高の感情を、荒天ではなく穏やかな夏の海で示した点で、画家の作品のなかでも異色である。