《バッカス》
岩陰に腰かけた裸の若者が、斑の毛皮を腰に巻き、右手で画面の外を指さして微笑む。左手には葡萄の房と杖を持ち、頭には蔦の冠。背後には鹿のいる野と、青くかすむ山並みが広がる。
概要
《バッカス》は、レオナルド・ダ・ヴィンチの工房で1517年から1520年頃に描かれた油彩画で、パリのルーヴル美術館が所蔵する。縦177センチ、横115センチ。もとは板に描かれ、18世紀の終わりにキャンバスへ移された。所蔵館の記録は、本作をレオナルドの工房の作とし、弟子のフランチェスコ・メルツィの手とする説も挙げている。館の題は《洗礼者聖ヨハネ》で、「バッカスと呼ばれる」と添えられる。
画面の読み解き
岩陰に腰かけた若者が、斑の毛皮を腰に巻いて脚を組み、右手の人差し指で画面の外を指して微笑む。左手には葡萄の房と細い杖を持ち、髪には蔦の冠を載せている。背後の野には鹿が憩い、遠くには青くかすむ岩山と水辺が広がる。所蔵館によれば、この人物はもともと荒野の洗礼者聖ヨハネとして描かれた。17世紀に葡萄と蔦の冠が描き加えられ、十字の杖は酒神の杖(テュルソス)に描き替えられて、神話画のバッカスとなった。斑の毛皮は当初からのものである。
技法・様式
所蔵館によれば、この人物像はラファエロの周辺や、システィーナ礼拝堂のミケランジェロの裸体像(イニューディ)とのつながりを示し、描き方の質は、ベルリン絵画館にあるメルツィの《ウェルトゥムヌスとポモナ》と比べられる。フランス国立の収蔵品目録(POP)によれば、レオナルドの原型の構図は、ヴァレーゼのサクロ・モンテ美術館にある洗礼者聖ヨハネの素描から知られ、本作は弟子がそれをもとに描いたものである。
来歴
所蔵館によれば、1625年にカッシアーノ・ダル・ポッツォがフォンテーヌブローで、レオナルドの作として初めて記録した。多くの研究者は、それより前、おそらくフランソワ1世の時代に王室の収集に入ったと考えている。1793年に旧王室の収集品として国有となった。1827年から1828年に大きな修復を受け、2017年から2019年にはシンツィア・パスカーリが修復し、フランス美術館研究修復センター(C2RMF)が科学調査を行った。現在はドゥノン翼のグランド・ギャラリー(第710室)に展示されている。
意義
フランス国立の収蔵品目録(POP)に残る旧い帰属の記録によれば、1852年のヴィロの目録では本作はレオナルドの作とされ、のちにオッティーノ・デッラ・キエーザは工房の作とした。所蔵館は現在、工房の作としながら、メルツィに帰属する説を挙げている。本作は、2012年10月から2013年1月までルーヴル美術館で開かれた展覧会「晩年のラファエロ」にも出品された。