《アトロポス》
銀色がかった夜の野の上に、4人の人物が浮かんで横に並ぶ。左の老婆は小さな人形のようなものを差し出し、その後ろの一人は輪のようなものを掲げる。中央の一人はこちらに顔を向け、右には鋏が高く上がる。
概要
《アトロポス》(西: Las Parcas (Átropos))は、スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤが1820年から1823年に、マドリード郊外の自宅の壁に描いた作品である。縦123センチ、横266センチで、のちにキャンバスへ移され、プラド美術館が所蔵する。晩年の連作〈黒い絵〉14点の一点で、人の命の糸をつかさどる運命の女神たちを描いた神話画である。
画面の読み解き
画面の中ほどに、4人の人物が宙に浮かんで横一列に並ぶ。左端の老婆は身を乗り出して小さな人形のようなものを差し出し、その後ろの人物は輪のようなものを掲げてのぞきこむ。中央の人物は正面を向いてこちらを見つめ、腕は背に回されて見えない。右には背を向けた人物がいて、その前に鋏が高く掲げられる。所蔵館によれば、この場面は画家アントニオ・ブルガダの作った目録で「アトロポス」と題された。アトロポスは、命の糸を断ち切る運命の女神である。下には川の流れる夜の野と木立が広がり、空は厚い雲に覆われる。所蔵館の百科事典(ヴァレリアーノ・ボサル執筆)は、これを幻想的でありながら写実的な、銀色の夜の風景とする。
技法・様式
所蔵館によれば、〈黒い絵〉は漆喰が乾いた壁に直接描かれ、絵具には油が混ぜられた(セッコ)。館は本作の技法を、壁の塗装面に描いてキャンバスに移した混合技法とする。暗い絵具と黒を多く使い、主題も陰鬱なことからこの連作の名がある。本作でも色は黒と黄土、白に切り詰められ、人物の衣や顔は荒く速い筆で描かれる。1873年には写真家ジャン・ローランが家の中の連作を撮影し、1900年に初めて館の目録に載った。
来歴
所蔵館によれば、ゴヤは1819年に、マンサナーレス川のほとりの郊外の家「キンタ・デル・ソルド(聾者の家)」を手に入れ、二つの部屋を14の場面で飾った。本作は二階の部屋の主な壁の一つに、《棍棒での決闘》と対をなして描かれていた。館の百科事典によれば、家は1873年にフレデリック・エミール・デルランジェ男爵のものとなり、1874年に館の修復家サルバドール・マルティネス=クベルスが息子たちとともに壁画をキャンバスに移した。男爵は1878年のパリ万国博覧会に14点を出品したが買い手はなく、1881年に国へ寄贈し、1882年1月に館に入った。所蔵番号はP000757で、第67室に展示されている。
意義
所蔵館の百科事典によれば、ヘシオドスは『神統記』で、夜の娘であるクロト、ラケシス、アトロポスが人間に善と悪を与えると語る。ゴヤはこの物語を変え、4人目として、女神たちに連れられる無力な男を加えた。同じ壁の《棍棒での決闘》とのつながりは明らかで、どちらも死を扱うが、ボサルはこれらの絵の意味はすべてが明らかではないとする。