《ムーラン・ルージュの踊り》
- 作者
- アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック
- 制作年
- 1889–1890年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 115.6 × 149.9 cm
- 所蔵
- フィラデルフィア美術館
- 時代
- 世紀末〜ポスト印象
- 流派
- ポスト印象派
緑がかった床の中央で、赤い靴下の踊り子が片脚を高く蹴り上げ、細身の男がそれに向き合う。まわりをシルクハットの客が囲み、右手前では羽根飾りの帽子にピンクの服の女性が横顔を見せて立つ。
概要
《ムーラン・ルージュの踊り》(仏: La Danse au Moulin-Rouge、英: At the Moulin Rouge: The Dance)は、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックが1889年から1890年にかけて描いた油彩画である。縦115.6センチ、横149.9センチ。フィラデルフィア美術館が所蔵する。パリのモンマルトルで1889年10月に開いたキャバレー、ムーラン・ルージュのダンスホールを描いた風俗画で、所蔵館は画家の生涯でもっとも大きく、意欲的な作品の一つに数える。ロートレックはこの店の最初期からの客で、開店から間もなくこの絵に取りかかった。店では毎晩、脚を高く蹴り上げるカンカン(シャユー)の踊りが披露されていた。
画面の読み解き
緑がかった床の中央で、赤毛の女性が片脚を高く蹴り上げて踊っている。スカートの下から赤い靴下と白いペチコートがのぞく。その左で、山高帽をかぶった細身の男が、つま先をとがらせ、ゴムのように曲がる脚で彼女と向き合う。キャンバスの裏には、おそらく画家自身の手で「骨なしヴァランタンによる新人たちの稽古」と書かれており、この男が、しなやかな身のこなしで知られた店の花形ヴァランタン・ル・デゾセだとわかる。所蔵館は、出番と出番のあいだのくだけたひとときを描いたものと解説する。二人のまわりをシルクハットの男たちや帽子の女たちが取り囲み、奥の柱には丸い灯りがともる。右手前には、羽根飾りの大きな帽子に白い毛皮の襟をつけ、ピンクの服を着た女性が、踊りには目を向けずに横顔を見せて立つ。左端の男は、画面の縁で体の半分を断ち切られている。
技法・様式
色は床と壁の緑、人々の服の黒や茶が中心で、赤は踊り子の靴下と、奥にいる赤い上着の人物などわずかな箇所に置かれている。手前の床には薄く溶いた絵具の筆の線が走り、下の地が透けて見える。手前の人物を縁で大きく切り取り、その肩越しに踊りの場をのぞかせる構図は、のちの《ムーラン・ルージュにて》(1892〜1895年、シカゴ美術館)にも通じる。所蔵館は様式をポスト印象派に分類している。
来歴
所蔵館によれば、絵はムーラン・ルージュの経営者たちが買い取り、バーの上に掛けた。共同経営者ジョゼフ・オレールが1890年から少なくとも1893年まで所有し、そのあいだ支配人のシャルル・ジドレールが店内に飾り続けた。のちに画商ポール・ローゼンベールの手を経て収集家S・セヴァジアンのものとなり、1920年3月22日、パリのオテル・ドゥルオーでの競売で画商アルノルド・セリグマンが購入する。1925年にはパリの装飾美術館で開かれた「フランス絵画の50年 1875〜1925」展に出品された。1934年6月までにフィラデルフィアの収集家ヘンリー・P・マキルヘニーが入手し、1986年、フランシス・P・マキルヘニーを記念するコレクションの一点として、遺贈により同館に入った。所蔵番号1986-26-32。
意義
ムーラン・ルージュは、ロートレックが1891年に最初のポスターとなるリトグラフ《ムーラン・ルージュのラ・グーリュ》を手がけた店でもある。本作はそれに先立ち、開店まもない店の踊りと客たちを大きな油彩画にまとめたもので、描かれた店の人々自身に買われ、その現場に掛けられた。踊り手の名前まで書き留めた裏書きとともに、画家とこの店との結びつきの始まりを伝える作品である。