《アメリカン・ゴシック》
尖頭アーチの窓がある白い木造の家の前に、三つ又のフォークを握った眼鏡の男と、髪を後ろで引きつめた女が並んで立つ。男は唇を結んでこちらを見据え、女は視線を横へそらしている。
概要
《アメリカン・ゴシック》(英: American Gothic)は、グラント・ウッドが1930年に描いた油彩画である。縦78センチ、横65.3センチのビーバーボード(木の繊維を圧し固めた板)に描かれ、シカゴ美術館が所蔵する。アイオワ州の小さな町で見かけた家と、そこに住んでいそうな人々を描いた作品で、同年に同館の展覧会で賞を受けて一躍有名になった。所蔵館は「アメリカで最も有名な絵画の一つ」と紹介している。リージョナリズムを代表する作品である。
画面の読み解き
手前に男女が肩を寄せて並び、胸から上をほぼ正面から描かれている。右の男は禿げ上がった頭に丸い眼鏡をかけ、襟のない白いシャツにデニムのオーバーオール、黒い上着を着て、干し草用の三つ又のフォークを垂直に握る。唇を固く結び、まっすぐこちらを見据える。左の女は金髪を後ろで引きつめ、ほつれた一筋を首筋に垂らす。白い襟の黒い服に、縁を波形のテープで飾った茶色のエプロンをつけ、襟元をカメオのブローチで留めている。視線は男の肩越しに画面の右へそれる。背後には白い板張りの家が建ち、切妻に尖頭アーチの窓が一つあって、内側にレースのカーテンが下がる。左のポーチには鉢植えが並び、右奥には赤い納屋と丸みを帯びた木々が見える。男のオーバーオールの右下に「GRANT / WOOD / 1930」の署名と年記がある。
技法・様式
所蔵館によれば、ウッドは1930年8月、アイオワ州南部の町エルドンで、1880年代に流行したカーペンター・ゴシックの家を目にし、そこに住む「アメリカン・ゴシックの人々」を思い描いた。女性のモデルは画家の妹ナン・ウッド、男性のモデルは画家のかかりつけの歯科医B・H・マッキービーで、二人は別々にポーズをとった。硬い姿勢で並ぶ人物について、画家は「古い家族アルバムのティンタイプ(19世紀の写真)」のようだと語っている。1928年のミュンヘン滞在で触れた北方ルネサンスの絵画の、様式化された形と明快な描写に学び、細部までくっきりと描き込んだ。学芸員は、フォークの形が男のオーバーオールの縫い目や家の線に、エプロンの円い模様がカーテンの模様に繰り返されていると指摘する。
来歴
ウッドは完成した作品を、1930年10月30日から12月14日まで開かれたシカゴ美術館の第43回アメリカ絵画彫刻年次展に出品した。本作は同展でノーマン・ウェイト・ハリス銅賞と賞金300ドルを受け、同年11月、同館のアメリカ美術友の会が画家から買い取って館に寄贈した。所蔵番号1930.934。その後も各地に貸し出され、2016年から翌年にかけては、1930年代のアメリカ絵画展でパリのオランジュリー美術館とロンドンのロイヤル・アカデミーを巡回した。
意義
展示されるとすぐに評判を呼び、その曖昧さから、人々は二人の関係や物語をさまざまに推測した。所蔵館の解説は二人を農夫とその娘とするが、学芸員は、父と娘とも夫婦とも取れ、画家はその謎をあえて残したと述べる。東部の批評家には田舎の後進性を皮肉った絵と受け取られ、アイオワの主婦たちからは抗議の手紙が寄せられた。一方、所蔵館によれば、ウッド自身は大恐慌の始まりの時期に、農村のアメリカの価値を肯定的に示そうとしていた。無表情な二人の姿は数えきれないほどのパロディーに引用され、アメリカ美術で最も広く知られた図像の一つとなっている。