《アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 II》
黒いつば広の帽子をかぶった女性が、正面を向いてまっすぐ立つ。白い衣に毛皮の縁取りの長い肩掛け、腰には青紫の帯。背後は赤地に東洋風の騎馬の人物、緑地に花、足もとには色とりどりの渦の模様が広がる。
概要
《アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 II》(独: Adele Bloch-Bauer II)は、オーストリアの画家グスタフ・クリムトが1912年から1913年にかけて描いた油彩画である。縦190センチ、横120センチのキャンバスで、現在は個人が所蔵する。1907年の《アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I》に続く、同じ女性の2点目の全身像で、ベルヴェデーレ美術館は、クリムトがモダニズムの晩年の様式で仕上げた最初の大きな注文肖像とする。
画面の読み解き
ベルヴェデーレ美術館によれば、5年前の最初の肖像と違い、クリムトはアデーレを正面から見た立ち姿で、強く自信に満ちた女性として描いた。黒いつば広の帽子の下で、女性はまっすぐこちらを見る。首もとには宝石の首飾りをつけ、白い衣の上に毛皮の縁取りの長い肩掛けをまとい、腰に青紫の帯を締める。背景は上下に分かれ、上の赤地には東洋風の建物や騎馬の人物が、下の緑地には色とりどりの花が描かれる。足もとには、渦を巻く模様の敷物が広がる。クリムトの研究機関であるクリムト財団のデータベースは、第一の肖像とはまったく違う、フォーヴィスム風の花のような色彩と東洋の装飾がこの絵の魅力だとする。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。ベルヴェデーレ美術館は2023年、所有者の了解を得て本作を調べ、修復した。表面のていねいな洗浄で灰色のくもりが取れ、澄んだ桃色、緑、青がよみがえった。X線と赤外線反射撮影の画像からは、はじめの構図がわかった。そこでは、アデーレは楕円の敷物の上に立って見る者にもっと近く、衣はずっと大きく広がり、首飾りの下の首はむき出しで、羽根飾りの帽子は画面の端まで達していた。一見すると迷いのない筆で描かれているが、担当の学芸員マルクス・フェリンガーは、クリムトが大きく描き直し、形を突き詰めようと格闘したと述べる。
来歴
クリムト財団によれば、アデーレと夫フェルディナントはクリムトの重要な支援者で、1912年にクリムトはプラハ近郊の夫妻の領地を訪れている。夫妻は1919年、展覧会のためにクリムトの絵を国立美術館(現在のベルヴェデーレ美術館)に貸している。1925年に没したアデーレは、夫の死後に絵を同館へ贈るよう遺言したが、1939年に収集はナチスに奪われて散り散りになった。夫は遺産を姪のマリア・アルトマンらに遺し、長い争いの末、2006年に仲裁裁判所の判断で本作を含む5点が相続人に返還された。本作は同じ年に競売にかけられ、以後は個人の所有が続く。2023年11月から2024年2月まで、ベルヴェデーレ美術館の上宮で特別に展示された。
意義
ベルヴェデーレ美術館は、ブロッホ=バウアーの名は同館と切り離せないとし、夫妻が貸した絵が、何十年ものちに世界で最も注目された美術品返還の事件の中心となったと記す。金地を多用した第一の肖像から5年のうちに、クリムトの肖像は、鮮やかな色の面と模様で画面を埋める晩年の様式へ移った。