《チェスの勝負》
暗い背景の前で、着飾った若い女と若い男がチェス盤を挟んで向き合う。年配の男が女に次の手を助言し、帽子を取った男は頭をかいて考え込む。周りでは男女十人が身を寄せ合い、勝負の行方を見守る。
概要
《チェスの勝負》(独: Die Schachpartie)は、北ネーデルラントの画家ルーカス・ファン・レイデンが描いた小さな板絵で、ベルリン絵画館が所蔵する。オーク材の板に描かれ、縦28.1センチ、横36センチ。所蔵館の目録は制作を1500年から1520年とする。館の刊行物『ベルリン絵画館 ヨーロッパ絵画の傑作200点』(2019年)によれば、オランダ絵画で最も早い風俗画の一つで、17世紀に大きな人気を得ることになる新しい絵の種類の、いわば揺籃期の作品である。
画面の読み解き
同書によれば、半身像で描かれた12人、男10人と女2人が、ひしめくように並ぶ。舞台は暗い背景にまで切り詰められ、さまざまな方向を向いた顔がくっきりと浮かび上がる。中心は若い女と若い男の対局で、見物人の何人かが熱心に手を追っている。女は勝負を決めるかもしれない一手を、年配の男から助言されている。相手の男の顔は驚きを、あるいは控えめな優越を表すようで、彼は横を向き、帽子を取って考え込むように頭をかく。盤は12×8のます目で、13世紀から行われた「クーリエ・チェス」と呼ばれる変則のチェスである。各人は通常の駒に加え、さらに4つの歩兵と、2つのクーリエなどの新しい駒をもつ。
技法・様式
同書によれば、場面は日々の暮らしから写し取ったように見えるが、実は巧みに演出された芝居のように入念に組み立てられ、芝居と同じく見る者への教訓を含んでいる。同じ画家の、構図の似た《女占い師》(1509年頃、ルーヴル美術館)では、若い女が若者の運命を占いながら好意のしるしに花を手渡し、その後ろに立つ道化が、若者が女の策略に落ちることを示している。
来歴
所蔵番号は574A。ベルリン国立美術館群の目録によれば、額の外寸は縦38.4センチ、横46.7センチである。
意義
同書によれば、チェスの厳しい規則は、王が歩兵よりも力をもつ人間社会の秩序に古くからなぞらえられてきた。一方でチェスは、とりわけ恋と恋の駆け引きのたとえでもあった。本作も、画家が版画で二つの連作を捧げた「女の力」の主題につながるものとみるべきだという。オランダの画家伝の著者カレル・ファン・マンデルは、若くして没した画家を早熟の才能と称え、9歳ですでに銅版画の彫刻刀を確かに扱い、その数年後には最初の絵を描いたと伝える。館の解説は、ファン・マンデルの伝える生年に従えば、画家はこの絵を14歳で描いたことになるとしている。