《雨傘》
- 作者
- ピエール=オーギュスト・ルノワール
- 制作年
- 1881–1886年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 180.3 × 114.9 cm
- 所蔵
- ロンドン・ナショナル・ギャラリー (ヒュー・レーン遺贈。2026〜2031年はダブリンのヒュー・レーン・ギャラリーへ長期貸出)
- 時代
- 写実・印象派
- 流派
- 印象派
傘の群れが空を覆うパリの通りに、身なりのよい母娘と、籠を提げた若い女がいる。右半分と左半分で筆づかいも服の流行も違う。ルノワールが4年ほどの間をおいて描き継いだためである。
概要
《雨傘》(仏: Les Parapluies)は、ピエール=オーギュスト・ルノワールが1881年頃から1886年頃にかけて描いた油彩画である。縦180.3センチ、横114.9センチ。ロンドン・ナショナル・ギャラリーが所蔵する。雨の街路に集まる人々を描いた風俗画で、印象派から離れていくルノワールの転換が、一枚の画面の中で見える点に価値がある。
画面の読み解き
画面の上半分は、開いた傘の群れが灰色と青の面となって覆う。右手前には流行の装いをした母と二人の娘がいて、小さい娘は輪回しの輪を抱える。左手前には、飾りのない紺の服を着た若い女が籠を提げて立ち、こちらを見返す。帽子屋の使いとみられ、右の一家とは身分の違いが対照される。奥では傘をさしかけようとする男の姿も見える。誰も雨を見ておらず、通りすがりの一瞬が切り取られている。
技法・様式
右半分は1880年から1881年頃の仕事で、羽のような細かい筆触を重ねて光を含んだ色をつくる、筆触分割の行き届いた印象派の描き方である。左半分は1884年から1885年頃で、輪郭がはっきりと引かれ、顔や手は硬く正確に描かれ、筆致は抑えられている。1881年から1882年にかけてのイタリア旅行でラファエロや古代の壁画を見たことが、この変化の背景にある。服の流行もその差を裏づける。右の人物は1881年から1882年頃の装いで、左の女の服は1885年頃に現れた形である。
来歴
美術商で収集家のヒュー・レーンが購入し、1915年のルシタニア号の沈没で没したのち、1917年にロンドン・ナショナル・ギャラリーへ遺贈された。ただし、ダブリンへ譲ると記した遺言の補足書が証人の署名を欠いていたため、帰属は長く争われる。現在は両館の合意にもとづき、一部の作品がダブリンのヒュー・レーン・ギャラリーと交替で展示される。本作も2026年から2031年まで同館へ長期貸し出されており、ロンドンでは展示されていない。所蔵番号NG3268。
意義
印象派の筆致と、それを退けたあとの引き締まった描写とが一枚の画布に並んでおり、1880年代のルノワールが何を捨てて何を得たかを一目で示す。同じ画家の《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》のような明るい群像から、輪郭のはっきりした人物像へ向かう道のりの、ちょうど折り返し点にあたる作品である。