《浴盤》
浅く丸いたらいの中で、赤毛の女性がかがみ込み、左手を底につき、右手のスポンジで首筋を洗う。画面の右を縦に切る棚の上には、銅の水差しや大きな水差し、ヘアブラシ、赤い髪の束が並ぶ。
概要
《浴盤》は、フランスの画家エドガー・ドガが1886年に描いたパステル画で、パリのオルセー美術館が所蔵する。館の記録では、厚紙にパステルで描かれ、縦60センチ、横83センチ。所蔵番号はRF 4046で、右下に「Degas, 86」の署名と年記がある。館によれば、本作は1886年の第8回、すなわち最後の印象派展に出品された。ドガが1880年代半ばに制作した、身づくろいをする女性を主題とする7点のパステルの1点で、ドガはその10年ほど前に、同じ主題をモノタイプ(一回刷りの版画)の連作で探っていた。
画面の読み解き
画面では、浅く丸い金属のたらいの中に、赤毛の女性が裸でかがみ込み、こちらに背を向けている。女性は左手をたらいの底について体を支え、右手に持ったスポンジで首筋を洗う。見る者はこの姿を、斜め上から見下ろす位置に置かれる。画面の右側は、縦に走る棚の板で大きく切り取られ、その上に、蓋のついた小さな銅の水差し、取っ手のある大きな陶器の水差し、ヘアブラシ、赤い髪の束などが並ぶ。館の解説によれば、身づくろいの道具の静物は、ジャポニスムから着想を得た、見下ろす高い視点によって大胆にゆがめられている。
技法・様式
館によれば、この私的で日常的なしぐさを容赦なく描く手法は、身づくろいをする女性を描いた、色恋めいた風俗画の絵になる伝統に何も負っていない。当時の批評家のなかには、若い女性の姿勢に一種の動物性を読み取る者もいたが、その姿勢は、古代の「うずくまるアフロディテ」の彫像に由来している。館は、本作を、たらいの中の女性という現代の主題を扱ったドガの作品のなかでも、最も大胆で名人芸を示す一点としている。乾いたパステルの線を重ねて、肌や水差し、棚の板の質感を描き分けている。
来歴
館の記録によれば、本作は1895年まで画商エミール・ブッソの収集にあり、その後、銀行家で収集家のイザーク・ド・カモンド伯爵の手に渡った。1911年に伯爵の遺贈としてフランス国家が受け入れ、同年ルーヴル美術館に配属されて、1914年から展示された。のちにオルセー美術館に移された。2026年の時点で、展示室には出ていない。
意義
館が挙げる展覧会歴は、1886年の第8回印象派展から、1924年のジョルジュ・プティ画廊のドガ展、1988年のグラン・パレのドガ展、2010年の横浜美術館のドガ展、2011年から2012年のボストン美術館とオルセー美術館の「ドガと裸体」展、2023年のオルセー美術館の「マネ/ドガ」展まで、27件に及ぶ。館の書誌には、1886年の印象派展に関する批評家フェリックス・フェネオンの文献や、ポール=アンドレ・ルモワーヌによるドガの作品目録(1946年、872番)が挙がる。