《奴隷市場》
日の差す古い中庭の市場で、白い頭布の買い手が、裸で立たされた若い女性の口に指を入れて歯を調べる。そばでは商人が彼女の衣を手にして立ち、奥の壁ぎわには、売られるのを待つ人々が座り込んでいる。
概要
《奴隷市場》(仏: Le Marché d'esclaves)は、フランスの画家ジャン=レオン・ジェロームが1866年に描いた油彩の風俗画である。縦84.6センチ、横63.3センチ。中東を思わせる中庭の市場で、売られる人々が買い手に検分される場面を描く。クラーク美術館が所蔵する。
画面の読み解き
所蔵館によれば、画面の中央の裸の女性と、右端の男性が、買い手になろうとする人々に検分されている。舞台は中庭の市場である。中央では、緑と白の衣をまとい白い頭布をかぶった男が、女性の口に指を入れて歯を確かめる。女性のそばでは、ターバンを巻いた商人が彼女の白い衣を手にして立つ。足もとの地面には、脱がされた衣が落ちている。奥の柱廊の前には、頭から布をかぶった人々が座り込み、さらに多くの男たちが取り引きを見守る。古びた壁や木の庇、格子窓が、乾いた光の中に細かく描かれる。AP の報道が引く館の解説は、これを「心をかき乱す場面」と呼び、近東を思わせるように仕立てた中庭の市場だとしている。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。所蔵館によれば、ジェロームはエジプトとトルコを旅した経験をもとに、建物や衣装の細部を本物らしく描いた。ただし画面は、実際の観察と想像とを組み合わせてつくられている。英語版ウィキペディアによれば、ジェロームは奴隷の売買の主題を繰り返し描いており、《奴隷の購入》(1857年)や、古代ローマを舞台にした《ローマの奴隷販売》(1884年頃)もある。
来歴
所蔵館によれば、画家は1866年8月23日に画商グーピルへ売り、本作はグーピルからガンバールへ渡ったのち同年11月に戻り、1867年1月27日にドレスデンのマイヤーへ売られた。1930年5月1日、パリのノードラー画廊からロバート・スターリング・クラークが購入し、1955年に美術館の所蔵となった。所蔵番号は1955.53。現在は展示されている。
意義
所蔵館は、本作が東方の文化を奇妙で暴力的、堕落したものとして描く、オリエンタリズムの固定観念を広めるものだったと指摘する。そうした描き方は、ヨーロッパの植民地支配を正当化する考えを強めた。AP の報道が引く館の解説によれば、遠くあいまいな舞台を選んだことで、19世紀のフランスの観客は、ヨーロッパでは禁じられていた奴隷制を非難しながら、女性の体を眺めることができた。2019年には、ドイツの政党が本作を選挙のポスターに使い、館長オリヴィエ・メレは、いかなる政治目的のためにもこの作品が使われることに強く反対すると述べた。