《贖罪の山羊》
- 作者
- ウィリアム・ホルマン・ハント
- 制作年
- 1854–1855年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 86.5 × 139.8 cm
- 所蔵
- レディ・リーヴァー・アート・ギャラリー (LL 3623)
- 時代
- 写実・印象派
- 流派
- ラファエル前派
夕暮れの死海の岸で、角に赤い布を巻いた一頭の山羊が、塩の固まったぬかるみに足をとられながらこちらへ歩いてくる。背後には紫に染まった山並みが連なり、岸辺には動物の骨や頭骨が散らばる。左上の空には白い月が浮かぶ。
概要
《贖罪の山羊》は、イギリスの画家ウィリアム・ホルマン・ハントが1854年から1855年にかけて描いた油彩の宗教画である。縦86.5センチ、横139.8センチのキャンバスで、イングランドのポート・サンライトにあるレディ・リーヴァー・アート・ギャラリーが所蔵する。左下に「OOSDOOM DEAD SEA / 18 WHH 54」の署名と年記がある。
画面の読み解き
所蔵館によれば、本作はハントが最初に聖地に滞在したときに描いた最初の大作である。別の作品《神殿で見出された救世主》(スドリー・ハウス)のためにユダヤ教の儀式を調べるうち、着想を得た。贖罪の日の祭りには、会衆の罪を表す緋色の布を頭につけた山羊が神殿から送り出され、罪が赦されれば布は白く変わると信じられていた。人や動物が他人の罪を負わされる「スケープゴート」という考えは、この儀式に由来する。ハントは、エドムの山々を遠くに望む死海の岸のウースドゥームを舞台に選んだ。そこはフランスの考古学者ルイ・ド・ソルシーがソドムの町の跡とした場所で、ハントは日記にこの景色を「罪の恐ろしい姿」と記した。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。前景の骨や頭骨、塩の結晶に覆われた岸辺、夕日に照らされた紫の山並みまでを細部まで描き込む、ラファエル前派の写実の方法による。所蔵館によれば、ハントは旧約聖書の贖罪の山羊を、受難と死によって人々の罪をぬぐった新約聖書のキリストに等しいものとみなしていた。山羊は、受難のキリストを示す寓意でもある。
来歴
所蔵館によれば、作品はおそらく画家から D.T. ホワイトに渡り、1856年7月にB.G. ウィンダスが買った。その後クリスティーズの売り立てと画商アグニューを何度も経て、ジョン・ヒュー、サー・トマス・フェアベアン、W. カスバート・クィルターの手に渡った。1923年6月、画商グーデン・アンド・フォックスからウィリアム・ヘスケス・リーヴァーが購入した。所蔵番号はLL 3623。
意義
所蔵館は、歴史家ドミニク・ジェインズが、ハントがソドムを舞台に選んだことに、贖罪の日と同性愛を結びつける意図をみる説を紹介している。罪と贖いという主題を、聖地の実景に重ねて描いた作品である。