《オックスボウ》
- 作者
- トマス・コール
- 制作年
- 1836年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 130.8 × 193 cm
- 所蔵
- メトロポリタン美術館
- 時代
- 新古典・ロマン
- 流派
- ハドソン・リバー派
嵐の去りかけた山の上から、U字形に大きく曲がる川と、日の当たる谷の畑を見下ろす。左には雷に裂けた木と暗い森と雨雲、右には明るい空の下の農地が広がり、下の中ほどには画家の姿が小さく描かれる。
概要
《オックスボウ》は、アメリカで活躍した画家トマス・コールが1836年に描いた油彩画である。正式な題は「マサチューセッツ州ノーサンプトン、マウント・ホリオークからの眺め、雷雨の後――オックスボウ」。縦130.8センチ、横193センチのキャンバスで、ニューヨークのメトロポリタン美術館が所蔵する。コネチカット川がU字形に曲がる景色を山の上から描いた、ハドソン・リバー派の代表作の一つである。
画面の読み解き
画面は左右で対照をなす。左は嵐が過ぎたばかりの山の斜面で、手前に雷に打たれて裂けた木が立ち、暗い森の上に雨雲がまだ垂れこめる。右は日の光を浴びた川の谷で、所蔵館によれば、作物や干し草の山、羊のいる私有の農地がつぎはぎのように広がる。トマス・コール国定史跡によれば、川の湾曲は、形が牛のくびきの弓なりの木に似ていることから「オックスボウ」と呼ばれた。雷雲は左へ去り、右には明るい空がのぞく。下の中ほどでは、画家自身がスケッチの手を止めてこちらを振り返る。同史跡によれば、画家の紙挟みには署名があり、そばに立てた日傘が、対立する画面の左右をつなぐ。遠くの丘の伐採の跡を、ヘブライ文字の「ノア」、逆さに読めば「シャッダイ(全能者)」とみる研究者もいるという。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。トマス・コール国定史跡によれば、構想は1829年から長い年月をかけて練られた。コールは山上からの眺めを2枚続きの紙に鉛筆でパノラマのように描き、アトリエでは小さな油彩の下絵で色を試してから本画に進んだ。ヨーロッパのパノラマ画にならって画面を横に広げ、視点を高くとることで、崇高の感覚を伝えようとした。同じ眺めを描いた1829年のバジル・ホールのエッチングと比べると、裂けた木や激しい雷雨はコールが加えた脚色である。画中の自画像は、野外で油彩の写生を行った最初期のアメリカの画家としての姿を示すが、コール自身は1835年、現地で仕上げた写生は「半分しか真実でない」と書いている。
来歴
同史跡によれば、コールは連作《帝国の推移》の進みの遅さと家計の不安から連作を中断し、1836年の全米デザイン・アカデミーの年次展のために本作を描いた。パトロンのルーマン・リードに宛てては、想像の絵はめったに売れず、実景より時間がかかるので、実景を1点描くことに決めたと書いている。展覧会での評価は分かれたが、画家も驚いたことに、ニューヨークの実業家チャールズ・N・タルボットが500ドルで買った。所蔵館によれば、1908年にラッセル・セージ夫人が同館に寄贈した。所蔵番号は08.228で、アメリカン・ウィングの第759室に展示されている。
意義
所蔵館は、本作の構図が、手つかずの「荒野」とされた土地へのヨーロッパ系アメリカ人の入植の広がりを強調するとみる。同史跡によれば、初めの評価は冷ややかだったものの、本作はコールの最も名高い絵の一つとなり、横長のパノラマの画面、広い空、細かく描き込んだ前景によって、ハドソン・リバー派の多くの画家に影響を与えた。アメリカの荒野が人の住む土地へ変わっていくことへの、画家の複雑な思いを力強く伝える点に、その魅力があるという。