《音楽の稽古》
- 作者
- ヨハネス・フェルメール
- 制作年
- 1662–1665年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 74.1 × 64.5 cm
- 所蔵
- ロイヤル・コレクション
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- オランダ黄金時代の絵画
左の窓から光が差す部屋の奥で、背を向けた女性がヴァージナルの前に立ち、そばで男性が耳を傾ける。壁の鏡には女性の顔が映る。手前には敷物を掛けた机と白い水差し、床にはヴィオラ・ダ・ガンバが置かれる。
概要
《音楽の稽古》は、オランダの画家ヨハネス・フェルメールが1662年から1665年頃に描いた油彩の風俗画で、イギリス王室のロイヤル・コレクションに属する。館の題は《ヴァージナルの前の女と男》。館の記録では、キャンバスに油彩で、縦74.1センチ、横64.5センチ。所蔵番号はRCIN 405346。館によれば、フェルメールの絵は34点しか知られず、年代を決めるのが難しいが、本作は1660年代に描かれたのは確かで、現在は1662年から1664年頃とする見方が一致しているという。右端の絵の額の下端に「IVMeer」(IVMは組み文字)の署名がある。
画面の読み解き
館の記述によれば、部屋の奥で、女性がこちらに背を向けてヴァージナルの前に立ち、その上に掛かる鏡に頭と肩が映っている。右では男性が立って彼女を見守り、手前の机の上には水差しが置かれている。左の窓から差し込む光が部屋を満たし、影はやわらかく淡い。ヴァージナルの蓋には「MUSICA LETITIAE CO[ME]S / MEDICINA DOLOR[IS]」とラテン語の銘があり、館によれば「音楽は喜びの友、悲しみの薬」を意味する。右奥の壁には、ディルク・ファン・バビューレンの《ローマの慈愛》(キモンとペロ)が掛かる。牢につながれた父キモンを娘ペロが乳で養った話で、身体と心の両面でのキリスト教の慈愛の理想を表す。
技法・様式
館は、本作の構図を、厳密な遠近法で見る人の目を部屋の奥の人物へと導くものと説明する。見る人はまず、張り出した机の角、椅子、低音のヴィオールに気づき、人物は後から目に入るので、二人のひそやかな時間は守られている。奥は、アンドレアス・ルッカース(父)の作に比べられるヴァージナルが占め、縦と横の線の格子のなかに人物がしっかりと組み込まれている。鏡に映るぼやけた像には、女性の顔、机の一部、そして画家の画架の脚まで含まれる。館によれば、画架がのぞくことで、フェルメールが描く人物と同じ空間にいることが示される一方、その工夫によって画家は、見る人と同じく空間の外にも立っている。奥の要素の多くが一部しか見えないのも、世界がつかみきれないものであることを示すようだという。
来歴
館によれば、本作は17世紀後半にフェルメールの故郷デルフトの収集にあり、1696年5月16日に売りに出されたヤーコプ・ディシウスの収集もその一つだった。ディシウスは画家の絵を21点持ち、一人が集めたものとしては最大だった。本作は1718年頃にヴェネツィアの画家ジョヴァンニ・アントニオ・ペッレグリーニがおそらくネーデルラントで手に入れ、1742年、おそらくその未亡人から英国領事ジョゼフ・スミスが買った。1762年にスミスからジョージ3世が買い入れたが、そのときは署名を読み違えてフランス・ファン・ミーリス(父)の作とされていた。画家の名が正しく突き止められたのは、1866年、テオフィル・トレ=ビュルガーによってである。
意義
館は、二つの楽器が置かれていることが分かち合う喜びと調和の可能性を示し、蓋の銘とあわせて、画家が探っているのは男女の関係だとみる。ただ、その関係がどの段階にあるのかは言い表せないという。バビューレンの《ローマの慈愛》は画家の義母マリア・ティンスが持っていたことが知られ、フェルメールはこの画家の別の絵を、ほかの二つの作品の背景にも使っている。その一つが《合奏》の《取り持ち女》である。館は、王室の収集で最も偉大なオランダ絵画の一つである本作が、当初は見過ごされたものの、いまでは多くの研究の対象になっていると述べる。