《世の光》
夜の果樹園で、茨の冠と王冠を重ねてかぶったキリストが、ランプを手に古い戸を叩いている。戸は雑草に覆われ、外側には把手がない。内から開けられるのを待つ場面である。
概要
《世の光》(英: The Light of the World)は、ウィリアム・ホルマン・ハントが1851年から1853年にかけて描いた油彩画である。上端が半円形の画面で、縦125.4センチ、横59.7センチ。オックスフォード大学のキーブル・カレッジの礼拝堂に掛かる。『ヨハネの黙示録』第3章20節の「見よ、わたしは戸口に立って、たたいている」という言葉を絵にした寓意画で、ラファエル前派の宗教画を代表する一点である。
画面の読み解き
夜の果樹園で、キリストが古い木の戸の前に立つ。頭には茨の冠と金の王冠を重ねてかぶり、大きな光輪を負う。白い衣の上に、宝石の留め金で胸を合わせた刺繍のマントをまとう。右手で戸を叩き、左手には透かし模様の金属のランプを提げる。戸の蝶番は錆び、足もとは蔓草や雑草に覆われて、長く開けられていないことがわかる。戸の外側には把手がない。背後の木々の間には夜空がのぞき、地面には落ちた林檎が転がる。上端の金地の隅には、ラテン語で「主よ、わたしを見過ごしたまうな」の銘と画家の署名がある。
技法・様式
ハントはサリー州ウスター・パーク・ファームの果樹園に小屋を建て、月夜に屋外で描き進めた。ランプの光と月の光という二つの光源を、ほの暗い画面の中で描き分けることが課題だった。キリストのモデルには画家の父やミレー、クリスティーナ・ロセッティらがつとめたと伝えられる。雑草の一本、ランプの透かしまで細部を描き込む方法は、ラファエル前派が求めた自然への忠実さを、宗教的な象徴と結びつけたものである。把手のない戸は、内側からしか開けられない人の心を表すとされる。
来歴
1854年のロイヤル・アカデミー展に出品された。当初は冷ややかに迎えられたが、批評家ジョン・ラスキンが新聞への投書で象徴の意味を解き明かして擁護した。所有者はオックスフォード大学の印刷監督でラファエル前派の支援者だったトマス・クームで、1872年に彼が没すると、翌1873年に未亡人マーサがキーブル・カレッジに寄贈した。1890年以降、礼拝堂の脇に設けられた小礼拝堂に掛けられ、現在に至る。
意義
カレッジが拝観に料金を取ったことに不満を抱いたハントは、晩年、等身大に近い大きな第2の版を描いた。この版は英語圏の各地を巡回したのち、ロンドンのセント・ポール大聖堂に収められている。ほかにマンチェスター市立美術館にも小型の版がある。複製版画を通じて英語圏の家庭や教会に広く行き渡り、ヴィクトリア朝でもっともよく知られた宗教画の一つとなった。