《接吻》
カーテンを引いた暗い部屋の窓辺で、男女が立ったまま固く抱き合う。二人の顔は境目を失い、一つの形に溶け合っている。カーテンの隙間からのぞく窓の外だけが、明るい光にあふれている。
概要
《接吻》(ノルウェー語: Kyss)は、ノルウェーの画家エドヴァルド・ムンクが1897年に描いた油彩画である。縦100センチ、横81.5センチ。暗い部屋の窓辺で抱き合う男女を描き、二人の顔は一つに溶け合っている。愛と死をめぐる連作「生命のフリーズ」に属する作品で、ムンク美術館が所蔵する。
画面の読み解き
カーテンを引いた暗い部屋の左に窓があり、カーテンの隙間から、外の明るい光がわずかにのぞく。その手前で、黒っぽい服の男女が立ったまま固く抱き合い、二人の顔は境目のない一つの形になっている。所蔵館によれば、ムンクはこの主題に深くとらわれ、二人の位置を変えた多くの変奏を描いたが、どれも窓の外の生き生きとした生活と、部屋の中の時の止まった凍りついた瞬間との、張りつめた対比を表している。二人を窓辺に立たせる構図は、雰囲気と表現にとって重要だという。ロマン主義の時代の美術では窓の主題に多くの意味が込められており、ムンクは内と外の空間の対比が持つ可能性を存分に生かした。抽象的に結びついた二人の姿と、互いに溶け込む顔は、二人が一つであることを強調し、男女の結びつきと一体感を美しく表している。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。所蔵館の目録では、右下の署名は「E. Munch 97」と読まれている。英語版ウィキペディアによれば、美術評論家ロバータ・スミスは、塗るというより染み込ませたような、長くにじむ筆づかいを指摘した。所蔵館の目録には、1891年の《窓辺の接吻》をはじめ、同じ主題の油彩や版画が関連作品として並ぶ。館は、同じ主題による1902年の木版画《接吻 IV》の刷りや関連資料も44点所蔵する。
来歴
所蔵館によれば、この主題の最初の試みは、おそらく1888年から1889年に描かれた。1918年、クリスチャニア(現オスロ)の画商ブロンクヴィストで「生命のフリーズ」の展覧会を開いたとき、ムンクは目録に、この連作に費やした30年の仕事について書き、最初に取り上げたのが《接吻》だった。英語版ウィキペディアによれば、本作は1903年に《マドンナ》と対にして展示されている。所蔵番号は MM.M.00059。2018年には東京都美術館の「ムンク展」で公開された。
意義
英語版ウィキペディアによれば、ニューヨーク近代美術館は、本作の暗い雰囲気に、恋愛に対するムンクの相反する気持ちを見る。美術史家ラインホルト・ヘラーは、溶け合う二人の姿が一体感を表すと同時に、個として生きることを失う脅威をも示し、死をほのめかすと述べた。作家スタニスワフ・プシビシェフスキは溶け合った顔を「巨大な耳」のようだと評し、劇作家アウグスト・ストリンドベリも、小さいほうが大きいほうを呑み込もうとする二つの存在の融合と書いた。