《生きる喜び》
- 作者
- アンリ・マティス
- 制作年
- 1905–1906年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 176.5 × 240.7 cm
- 所蔵
- バーンズ・コレクション
- 時代
- 世紀末〜ポスト印象
- 流派
- フォーヴィスム
黄やピンク、緑の色面で描かれた森の空き地に、裸の人々が集う。奥では輪になって踊り、手前では笛を吹き、寝そべって憩う。木々の枝はうねる線となって画面を包み、人物の大きさは場所ごとにまるでそろわない。
概要
《生きる喜び》(仏: Le Bonheur de vivre)は、フランスの画家アンリ・マティスが1905年10月から1906年3月にかけて描いた油彩画である。縦176.5センチ、横240.7センチの大作で、フィラデルフィアのバーンズ・コレクションが所蔵する。フォーヴィスムの名が生まれた1905年のサロン・ドートンヌの秋に描き始められた。所蔵館は、ヨーロッパのモダニズムの分水嶺となった絵の一つとする。
画面の読み解き
所蔵館によれば、自然の中で人々が踊り、楽を奏でる官能的な理想郷は、何世紀にもわたって描かれてきた主題である。画面には16人の人物が、さまざまな姿勢と様式で描かれる。奥の中央では人々が輪になって踊り、その回る動きが見る者の視線を散らし、画面の中へ巡らせる。手前には、寝そべる人々や、頭が一つに重なるほど絡み合う二人が描かれる。人物を包みながら画面をほぼ横切るうねる線は、装飾に使われるアラベスクの線で、中央の人物が吹く笛の音を目に見えるかたちにしたものとも考えられる。中央の二人を浮き立たせる光の輪、絡み合う木の葉の色面の脈動、左に立つ人物の手から空へ伸びるしなやかな線も、画面に律動を与える。一方で、遠近や人物の大きさ、視点はところどころで食い違う。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。所蔵館によれば、本作はキャンバスの絵でありながら壁画の性格を多く備える。表面はなめらかで厚塗りは少なく、絵具の層の透明さを生かした明るい画面である。とくに左上では絵具を薄く溶いて流し、ところどころで白い下塗りがのぞく。中央の人物の髪のまわりなどでは、色を厚く不透明に塗る。人物は肉付けをせず、ピンクや緑、黄の平らな色で描かれる。サンフランシスコ近代美術館に残る最後の油彩の下絵は、新印象派風の分割された色の点で描かれ、完成作の4分の1にも満たない大きさである。同館によれば、マティスはフランスのアカデミックな絵画やギリシアの壺絵の図像にも学んだ。
来歴
所蔵館によれば、本作は1906年3月20日から4月20日までパリのアンデパンダン展に出品され、会場でレオ・スタインが画家から買った(支払いは1907年)。展覧会が終わると、マティス自身がフルリュス通りのレオとガートルード・スタインの住まいに掛けた。1914年に兄妹が別れたのち、ベルネーム=ジュヌ画廊、画商ポール・ギヨーム、コペンハーゲンの収集家クリスチャン・テッツェン=ルンの手を経て、1923年1月27日にアルバート・C・バーンズがギヨームを通じて購入した。所蔵番号はBF719。
意義
所蔵館によれば、1906年の観客を驚かせたのは主題ではなく、大胆な色、ちぐはぐな大きさの変化、ゆがんだ人体という描き方だった。さまざまな参照と様式の食い違いを寄せ集めた画面は、雑種ゆえに怪物のように受け取られ、美術学校が教える古典的な統一の教えに挑むものだった。ガートルード・スタインはのちに、マティスはこの絵で色の新しい方式を生み出し、その時代のあらゆる画家に跡を残したと書いた。スタイン家を訪れた若いピカソも衝撃を受け、二人の競い合いはここから始まったとされる。