《緑のキリスト》
海辺の砂丘に、緑色の石の十字架像が立つ。死んだキリストを三人の聖女が膝に抱える像の前で、青い服のブルターニュの女が黒い羊のそばに座り込む。砂丘の向こうには、暗い緑の海と赤い島が見える。
概要
《緑のキリスト》(仏: Le Christ vert)は、フランスの画家ポール・ゴーギャンが1889年に描いた油彩画である。縦92センチ、横73.5センチのキャンバスで、ブリュッセルのベルギー王立美術館が所蔵する。館の題は《ブルターニュのカルヴェール》(Le calvaire breton)で、カルヴェールはキリストの受難を刻んだ石の十字架像をいう。同じ年の《黄色いキリスト》と並び称される作品である。
画面の読み解き
画面の右に、緑色の石の像が立つ。十字架から降ろされたキリストの体を、頭巾をかぶった三人の聖女が膝の上に横たえて支え、背後には十字架の柱が画面の上端まで伸びる。だらりと垂れたキリストの右手は、手前に座る女の頭のすぐ上にある。女は青い服に淡い前掛け、赤茶の頭巾をつけ、疲れたように身をかがめて座り、そばには黒い羊がいる。左には黄色と桃色の砂丘が広がり、小道を棒を担いだ人が歩き、もう一人がうずくまる。その向こうには暗い緑の海と赤い島、小さな帆船が見え、空は紫がかった雲に覆われる。作品総目録が引くレオン・パローの1967年の論考によれば、ゴーギャンはポン=タヴァンで描き始めた本作を海辺のル・プールデュで仕上げ、像はポン=タヴァンに近いニゾンのカルヴェールのピエタにならったものだという。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。所蔵館によれば、画面の下の左寄りに「89 / P.Gauguin」の年記と署名がある。石像は緑、砂丘は黄と桃色、海は暗い緑というように、画面は現実の色から離れた平らな色面で塗り分けられ、輪郭がそれを区切る。日本語版ウィキペディアの《黄色いキリスト》の記事は、本作を《黄色いキリスト》とともに、ゴーギャンの初期の象徴的な様式を代表する作とする。
来歴
ウィルデンスタイン・プラットナー研究所のゴーギャン作品総目録によれば、1889年10月、「ブルターニュのカルヴェール」の題でパリの画商ブッソ・ヴァラドン商会に預けられた。1891年5月19日に同商会が画家から買い、同じ日に南仏セートのジュール・シャヴァスへ売った。その後、画商アンブロワーズ・ヴォラール、収集家モーリス・ファーブル(1906年のサロン・ドートンヌに貸し出し)、ドリュエの画廊などを経て、1922年6月、ブリュッセルのジョゼフ・ブレックポットから館が購入した。所蔵番号は4416。
意義
作品総目録が引く1889年11月20日か21日のテオへの手紙で、ゴーギャンは本作を「石の三人の女がキリストを抱く絵」と呼び、「ブルターニュ、素朴な迷信と荒涼」と書いた。そして、すべてが信仰と受け身の苦しみ、原始的な宗教の様式、叫びをあげる大自然を呼吸するよう求めたと述べる。一方、テオは10月22日の兄ヴィンセントへの手紙で、ゴーギャンの最近の送り物には日本やエジプトの美術の記憶が多いとし、「日本の女の身ぶりをしたブルターニュの女より、土地のブルターニュの女を見たい」と書いた。ファン・ゴッホ美術館の書簡集の注は、この送り物に本作が含まれていたとする。