《ゆりかご》
ゆりかごのそばに座る若い母親が、頬杖をついて、眠る赤ん坊を見つめている。もう一方の手で、ゆりかごを覆う薄い紗の幕を引き寄せる。背後には窓の幕が斜めに掛かり、赤ん坊は白い幕越しに柔らかく描かれる。
概要
《ゆりかご》(仏: Le Berceau)は、フランスの画家ベルト・モリゾが1872年にパリで描いた油彩の風俗画である。縦56センチ、横46.5センチのキャンバスで、パリのオルセー美術館が所蔵する。所蔵館によれば、疑いなくモリゾの最も有名な作品で、画家の姉の一人エドマが、眠っている娘ブランシュを見守る姿を描いている。のちに画家が最も好んだ主題の一つとなる母と子の姿が、その作品に初めて現れた一点である。
画面の読み解き
所蔵館によれば、母親のまなざし、子どもの腕と鏡に映したように対をなす母親の曲げた左腕、そして赤ん坊の閉じた目が一本の対角線をつくり、背景の窓の幕の動きがそれをさらに強めている。この対角線が母と子を結びつける。見る者と赤ん坊のあいだに、ゆりかごの薄い紗の幕を引き寄せるエドマの仕草が、この絵の親密さと、子を守ろうとする愛情の感じをいっそう強めている。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。画面の多くを白い紗の幕とゆりかごが占め、赤ん坊はその幕越しに見える。オルセー美術館の2019年の回顧展の解説によれば、モリゾは働く女性や身づくろいをする女性、家庭の室内などの現代生活の情景を、描写的というより暗示的な、大胆で力強い筆づかいで描いた。本作の母と子の主題も、そうした身近な人々を描いた室内の情景の一つである。
来歴
所蔵館によれば、エドマの夫ポンティヨンの収集から、描かれた娘ブランシュ、のちのフォルジェ夫人に伝わった。1930年に国立美術館がルーヴル美術館のために購入し、1947年から1986年までジュ・ド・ポーム館に展示され、1986年にオルセー美術館へ移された。所蔵番号はRF 2849。現在は0階の10室に展示されている。
意義
所蔵館によれば、モリゾは1874年の印象派の展覧会に本作を出品し、このグループとともに出品した最初の女性となった。作品はほとんど注目されなかったが、有力な批評家たちはその優美さと気品に触れた。売ろうとして果たせなかったのち、画家は二度と本作を展示せず、作品は1930年にルーヴル美術館が買い上げるまでモデルの家族のもとにあった。