《サーカス》
黄色い円形の舞台を白馬が駆け、その背で曲芸師が身を反らす。後ろでは別の曲芸師が宙で反り返り、客席の人々がそれを見上げる。すべてが無数の色の点でできている。
概要
《サーカス》(仏: Le Cirque)は、ジョルジュ・スーラが1891年に描いた油彩画である。縦186センチ、横152センチ。パリのオルセー美術館が所蔵する。同時代の見世物を主題とする連作の三作目にあたり、画家が完成を見ないまま没したため未完のまま残された。新印象派の到達点を示す一点である。
画面の読み解き
画面の下半分を黄土色の円形の舞台が占め、白い馬が左へ駆ける。その背に立つ女性の曲芸師は黄色い衣で身を反らし、両腕を上げる。馬の後ろでは別の曲芸師が宙で身を折り、手を床に届かせようとしている。右手前には背を向けた道化が黄色い布を広げ、画面の最前面にはもう一人の道化の後ろ姿が大きく置かれて、見る者を場内へ引き入れる。右端には鞭を持つ団長が立つ。左から上にかけては客席が段になって重なり、下の段には身なりのよい客が、上の段には簡素な服の客が並ぶ。舞台の床には鞭の曲線が一本、白く描かれている。画面の四辺には、画家自身が濃い青紫の点で縁取りを施している。
技法・様式
絵具はパレットで混ぜられず、純色の小さな点として画布に置かれる。黄・橙と青紫という補色の対が全体を支え、白が多くを占める。曲芸と馬の上昇する曲線に対し、客席は水平と垂直の直線で組まれ、動と静が画面の上下で対比される。上へ向かう線は快活さを、水平の線は静けさを表すという、シャルル・アンリの線の理論を意識した構成と考えられている。筆触分割をさらに規則化した描き方である。
来歴
1891年3月20日に開いた独立芸術家協会(アンデパンダン)展に、未完のまま出品された。その9日後の3月29日、スーラは31歳で急逝する。作品は母の手もとに残り、弟エミールとレオン・アペールを経て、1900年までにポール・シニャックの所有となった。1924年までアメリカの収集家ジョン・クインが持ち、クインの遺志により1927年にフランス国家へ遺贈される。ルーヴル美術館を経て、1977年からオルセー美術館にある。所蔵番号RF 2511。
意義
印象派が偶然の一瞬にゆだねた光を、色彩と線の理論で組み直そうとした試みの、もっとも大きな例である。未完で筆を止められたことが、かえって点の一つひとつと画面の骨組みを見えるままに残した。スーラの死によって新印象派は中心を失うが、純色を並べるという発想は20世紀初めの絵画へ受け継がれていく。