《天文学者》
- 作者
- ヨハネス・フェルメール
- 制作年
- 1668年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 51 × 45 cm
- 所蔵
- ルーヴル美術館
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- オランダ黄金時代の絵画
窓から差す光の中で、長い髪の男が椅子から身を乗り出し、机の上の天球儀に右手を広げて触れる。机には厚い花模様の敷物がかけられ、開いた本が置かれている。奥の壁には額に入った絵が掛かる。
概要
《天文学者》(蘭: De astronoom、仏: L'Astronome)は、ヨハネス・フェルメールが1668年に描いた油彩画である。縦51センチ、横45センチ。パリのルーヴル美術館が所蔵し、所蔵館は《占星術師》の別名も記している。窓辺の書斎で、学者が机の上の天球儀に手を伸ばす姿を描いた風俗画で、翌年に描かれた《地理学者》(フランクフルト、シュテーデル美術館)と同じ主題を扱う。オランダ黄金時代の絵画を代表する画家の、後期の作品である。
画面の読み解き
左の窓には鉛の枠にはめたガラスが並び、そこから差す光が机と男の顔を照らす。長い髪を肩に垂らした男は、ゆったりとした青緑の部屋着をまとい、椅子から身を乗り出して、右手の指を天球儀の上に広げている。左手は机の縁に置かれ、そのそばで本が開かれている。机には花模様の厚い敷物がかけられ、窓側でたくし上げられて大きなひだをつくる。背後の戸棚の上には本が並び、戸棚の側面には円の図を描いた紙が貼られている。右の壁には額に入った絵が掛かり、右端には椅子の背がのぞく。天球儀の右の戸棚に、「IVMeer」の署名と、ローマ数字による1668年の年記がある。
技法・様式
所蔵館によれば、机の上の天球儀はホンディウスが1600年に制作したもの、開かれた本は1621年に出たメティウスの天文学の手引き書で、星を扱った章が開かれ、メティウスが考案した輪の付いたアストロラーベ(天体観測儀)の図版が見える。机にはさらに、16世紀のコンパスとアストロラーベが置かれている。実在の品を正確に描き込みながら、フェルメールは光を左の窓からの一方向に絞り、男の顔と手、天球儀と本を浮かび上がらせて、室内の残りを褐色の暗がりに沈めている。
来歴
所蔵館によれば、1713年にロッテルダムで開かれた競売に、同じ主題の対の作品とともに出品されたのが最も古い記録とされる。以後、対の作品と組で18世紀のアムステルダムの収集家のあいだを渡り、1785年には画商パイエがフランス国王ルイ16世に購入を持ちかけたが、実現しなかった。1797年の競売を最後に《地理学者》とは別々の道をたどり、19世紀にはイギリスを経て、1866年末か翌年初め、フェルメールを再評価した批評家トレ=ビュルガーが、パリの収集家ドゥーブルのために買い入れた。のちにアルフォンス・ド・ロチルド男爵の所有となるが、1940年、ドイツ当局に接収され、ヒトラーがリンツに計画した美術館のために押さえられた。1945年に連合国が回収し、翌年ロチルド家に返還される。1982〜1983年、ギー・ド・ロチルドから相続税の物納によってルーヴル美術館に入った。所蔵番号RF 1983 28。
意義
所蔵館は、奥の壁の絵を、ピーター・レリーがオランダ時代(1643年以前)に描いた《水から救われるモーセ》とみる。フェルメール自身の所蔵品だった可能性もあり、天文学者の営みに対して神の摂理を示す画中画と解される。所蔵館はまた、書斎で学問に励む人物を描いたレンブラントやドウに連なるオランダの伝統や、聖ヒエロニムスや瞑想する隠者の図像とのつながりを指摘する。《地理学者》とは厳密な対ではなく、同じ主題のごく近い変奏とみるのが所蔵館の立場で、2点を対照的な意味の組とする解釈は誇張されてきたという。モデルを顕微鏡の研究で知られるアントニ・ファン・レーウェンフックとする説もあるが、所蔵館は、1668〜1669年の時点で彼はまだあまり知られておらず、根拠のない説としている。日本では2015年、国立新美術館と京都市美術館の「ルーヴル美術館展 日常を描く―風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄」で初めて公開された。