《無垢の時代》
大きな木の下の地面に、白い服の幼い少女がはだしで座る。髪にリボンを結んだ少女は、胸の前で両手を組み合わせ、顔を横に向けて、右に広がる明るい空のほうを見やる。
概要
《無垢の時代》(英: The Age of Innocence)は、イギリスの画家ジョシュア・レノルズが1788年ごろに描いた油彩画である。縦76.5センチ、横63.8センチのキャンバスで、ロンドンのテート・ブリテンが所蔵する。木の下に座る幼い少女を描いたファンシー・ピクチャーで、レノルズの作品のなかでも特に親しまれてきた一点である。
画面の読み解き
画面の中ほどで、白い服の幼い少女が木の下の地面に座る。少女は顔を右へ向けて横顔を見せ、胸の前で両手の指を組み合わせる。服の裾からは、はだしの足がのぞく。栗色の短い髪には淡い色のリボンを結び、ばら色の頬と小さな唇が明るく照らされる。ゆったりとした白い服はひじまでの袖で、膝から下は地面に大きく広がり、光を受けてやわらかな襞をつくる。左には白っぽい幹の木と暗い茂みが画面の上まで覆いかぶさり、左下の草むらには赤い小さな花が咲く。右には青い空に白い雲がわき、遠くに木立の続く野が低く広がる。暗い木陰を背にして、少女の白い姿が浮かび上がる。大英博物館は、本作をもとにした1794年の版画について、少女が木の下に座り、頭を横に向けて右を見る全身像と記している。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。テートによれば、本作は、レノルズが先に描いていた《苺売りの少女》(英: A Strawberry Girl)の上に描かれている。画家は少女の姿を描き変え、両手だけをもとのまま残した。ウォレス・コレクションによれば、《苺売りの少女》は画家自身が「最も独創的で成功した作品」と考えた主題で、1770年代に少なくとも4点が描かれた。同館にある1772〜1773年の作は縦76.6センチ、横63.7センチで、本作とほぼ同じ大きさである。ロンドン・ナショナル・ギャラリーの画家解説によれば、レノルズの絵は技法に欠陥があったため保存が完全ではなく、洋紅の赤があせて肌の色が意図より白っぽくなり、黒に使ったビチューメンにはひびが入りやすい。
来歴
制作の年ははっきりしない。テートは「1788年?」と疑問符をつけて記す。大英博物館の版画の解説によれば、研究者デヴィッド・マニングズは、1785年のロイヤル・アカデミー展に「少女」の題で出品された絵である可能性を示している。モデルもわかっていない。テートは、画家の姉の孫にあたるテオフィラ・グワトキン、アン・フレッチャーという女性、第4代マールバラ公の末娘アン・スペンサーの3つの説を挙げる。日本語版ウィキペディアによれば、現在の題は画家がつけたものではなく、1794年にジョゼフ・グローザーが制作した版画の題に由来する。大英博物館はこの点刻版画を同じ題で所蔵する。本作は1847年に収集家ロバート・ヴァーノンがナショナル・ギャラリーに寄贈した作品の一つで、1951年にテートへ移された。所蔵番号はN00307で、テート・ブリテンの第4室「展覧会の時代 1760〜1815」に展示されている。
意義
テートは、本作をレノルズの最も人気のある図像の一つとし、1856年から1893年までに実物大の模写が323点以上つくられたと記す。ウォレス・コレクションも、本作と《苺売りの少女》が、19世紀に最も好まれたレノルズのファンシー・ピクチャーになったとする。テートによれば、ファンシー・ピクチャーは、人物、とくに子どもにさまざまな役を演じさせる18世紀の絵である。同館は本作を、1760年に始まった公開の展覧会の熱気を再現する展示室に並べている。