《聖アントニウスの誘惑の三連祭壇画》
- 作者
- ヒエロニムス・ボス
- 制作年
- 1500年
- 素材
- オーク板 / 油絵具・グリザイユ
- 寸法
- 131.5 × 225 cm
- 所蔵
- リスボン国立古美術館 (2025年9月29日から改修のため休館中。2026年第4四半期に再開予定)
- 時代
- ルネサンス
- 流派
- 初期フランドル派
燃え上がる村と濁った水のほとり、崩れかけた塔の前に、隠者アントニウスがひざまずいてこちらを見る。空には魚の舟や鳥の怪物が飛び、地には豚の頭の男や鎧を着た魚がうごめく。左右の翼にも、襲われ、誘われる聖人の姿がある。
概要
《聖アントニウスの誘惑の三連祭壇画》(葡: Tentações de Santo Antão)は、ヒエロニムス・ボスが1500年頃に描いた三連の祭壇画である。オークの板に油彩で描かれ、高さは131.5センチ、中央の板の幅は119センチ、左右の翼はそれぞれ53センチ。ポルトガルのリスボン国立古美術館が所蔵する。3世紀から4世紀にかけてエジプトの砂漠で修行した隠者、聖アントニウスが悪魔の誘惑に耐える姿を描く。初期フランドル派の緻密な油彩で、幻想の世界を描いた代表作の一つである。
画面の読み解き
所蔵館によれば、内側の三枚の板には、悪魔の誘惑から隠者の暮らしによる救いへと至る聖人の三つの場面が描かれている。左の翼では、悪魔たちに空へ持ち上げられて地に落とされた聖人が、仲間に支えられて木の橋を渡る。空には魚の形の舟や翼のある怪物が飛ぶ。中央の板では、燃え上がる村を背に、崩れかけた塔の前でひざまずく聖人がこちらを見つめ、廃墟の奥に身を寄せるキリストの姿と、祭壇の十字架像を指さす。その周りには、ばら色の衣の女、フクロウを頭にのせた豚の頭の男、杯を掲げる人々が集い、手前の濁った水には、鎧を着た魚や船になった魚が浮かぶ。右の翼では、聖人が座って書物を読み、背後の木のうろには裸の女が立つ。手前では、裸の男たちが食卓を背負う。中央の板の左下には「Jheronimus bosch」の署名がある。
技法・様式
所蔵館は、この署名のある三連画で、空と地と水と火という世界の四つの元素が、奇怪な姿と場面の舞台になっていると述べる。中央の板と両翼は一つの空間にまとめられ、無数の悪魔と出来事がそこに群がる。ポルトガルの文化ポータル e-cultura の解説は、本作を古い悪魔学の論考を絵に置き換えたものともいえるとしながら、ボスが空間と世界を近代的な一つのまとまりとしてとらえ、見る者をぎょっとさせる像をあらわに見せることで、伝統的な図像を新しい形で組み立てたと指摘する。翼を閉じると、外側には灰色の単色画(グリザイユ)で、キリストの捕縛と、ゴルゴタへの道で聖ヴェロニカに出会う場面が描かれている。所蔵館は、単色の画面が不気味な夜の気配を生み、世界の道徳的な堕落を強調しているとする。
来歴
e-cultura の解説によれば、本作はリスボンの旧王宮、ネセシダデス宮殿から館に入った。ポルトガルに来た経緯はわかっておらず、人文学者ダミアン・デ・ゴイスの収集にあったという説もあるが確かではない。所蔵番号1498 Pint。館を運営するポルトガル美術館・記念物公社は、本作を16世紀初めのフランドル絵画の際立った例として、ヌーノ・ゴンサルヴェスの《聖ヴィセンテの祭壇画》や南蛮屏風と並ぶ館の代表作に挙げている。館は2025年9月29日から改修のため休館しており、2026年8月の発表では、同年の第4四半期に再開する予定である。
意義
所蔵館は、悪を前にした正しき人の誘惑と孤独を、ボスが関心を寄せ続けた主題として挙げる。e-cultura の解説によれば、本作は悪魔の群れの姿をとった悪に侵された世界の全体像を描くもので、その悪魔たちは中世の長い図像の伝統への画家の敬意でもある。外側の場面も暴力と、死体の横たわる荒れ地に満ち、三連画全体の悲観的な、しかし絶望はしていないメッセージを強めているという。