《スカルガの説教》
薄暗い大聖堂の内陣で、黒い衣の老司祭が両腕を高く掲げ、光を浴びて語りかける。周りでは国王や貴族、聖職者たちが身じろぎもせず聞き入る。手前の床には、誰のものでもない手袋が一つ落ちている。
概要
《スカルガの説教》(ポーランド語: Kazanie Skargi)は、ヤン・マテイコが1864年に描いた油彩の歴史画である。縦224センチ、横397センチの大画面で、ワルシャワ王宮が所蔵する。17世紀初め、クラクフの大聖堂の内陣で、イエズス会士ピョートル・スカルガが国王ジグムント3世と国の重臣たちを前に説教する場面を描く。アダム・ミツキェヴィチ研究所の culture.pl によれば、マテイコの作品の中で、のちに一貫して展開される歴史観を初めて示した作品である。
画面の読み解き
culture.pl によれば、静止した人物が数多く並び、動きらしい動きがないため、画面は集団肖像画のような印象を与える。ただ一人、動きの中に描かれるのがスカルガで、ほかの人々は物思いに沈んでいる。物語は筋の運びではなく、人物の表情と顔の動きで語られ、画家はスカルガの言葉に対する反応や人物同士の関係を、感情の描き分けで示した。もっとも、この説教の場面は実際には起こらなかった出来事で、マテイコはそれを知らなかったという。画面右では、白髪のスカルガが段の上で両腕を掲げ、中央近くに黒衣の国王が座る。床の中央には、手袋が一つ投げ出されている。
技法・様式
culture.pl によれば、構図は画面を二分する中心軸と、互いに釣り合う2本の対角線で組み立てられ、均衡と調和を保つ。色調は暗く抑えられ、人物はスポットライトのように向けた光で背景から浮かび上がる。最も重要なスカルガと国王は、白と黒の対照的な衣装で際立たせられている。マテイコは古い図像や文献を丹念に調べて昔の衣装を再現し、集めた古物を絵の小道具に使った。本作では、全体を見通す理想化と、歴史の細部へのこだわりが見事に釣り合っている。
来歴
pl.wp によれば、本作は1864年にクラクフの美術愛好家協会で展示され、マウリツィ・ポトツキが1万グルデンで購入した。1865年のパリの展覧会で金賞を受けている。輸送を重ねて傷み、1884年にウィーンで新しい画布に裏打ちされた。1939年、第二次世界大戦を前に《グルンヴァルトの戦い》と同じ木の軸に巻かれてルブリンへ運ばれ、地中に埋めて隠された。1944年に掘り出されたが湿気で傷み、約5年かけて修復された。1986年からワルシャワ王宮の所蔵で、所蔵番号はZKW 2048。
意義
culture.pl によれば、本作は19世紀後半のヨーロッパで盛んになった歴史主義の流れに属する。国ごとの歴史を描く絵画は、民族意識の形成と結びつき、分割の時代のポーランドでは、思想や教訓を伝えるだけでなく、失われたものを補う役割も担った。pl.wp によれば、マテイコは本作を1863年の一月蜂起が挫折した直後に描いており、動かない聴衆と、国の行く末を語る説教者の姿は、その時代の空気とも重なる。