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《9月の朝》

Matinée de septembre
《9月の朝》ポール・シャバ
Wikimedia Commons / メトロポリタン美術館 / Public domain 拡大して見る ⌕
PLATE
作者
ポール・シャバ
制作年
1912年
素材
キャンバス / 油絵具
寸法
163.8 × 216.5 cm

朝もやに包まれた山あいの湖で、裸の若い女性が一人、浅瀬に立っている。冷たい水に身をすくめるように前かがみになり、両腕を体の前に寄せて、淡い金色の光の中にたたずむ。

概要

《9月の朝》(仏: Matinée de septembre、英: September Morn)は、フランスの画家ポール・シャバが1912年頃に描いた油彩画である。縦163.8センチ、横216.5センチのキャンバスで、ニューヨークのメトロポリタン美術館が所蔵する。山あいの湖の浅瀬に立つ裸の若い女性を描いた作品で、1912年のパリのサロンで名誉賞を受けた。翌1913年、アメリカで複製の展示をめぐって風紀の取り締まりの騒ぎが起き、複製が絵はがきや暦などに広く使われて、よく知られる絵となった。

画面の読み解き

画面の右寄りに、裸の若い女性が一人、湖の浅瀬に立っている。水はすねのあたりまであり、女性は冷たさに身をすくめるように前かがみになって、両腕を体の前に寄せている。顔は左へ向けられ、短くまとめた髪が朝の光を受けて金色に光る。背景には、もやにかすむ山並みと、その影を映す静かな湖面が広がり、山の上には白い雲がわく。画面全体は淡い金色と灰色の調子でまとめられ、人物の肌も湖や空と溶け合う色で描かれている。左下の岸辺には枯れかけた草が描かれ、その下に「Paul-Chabas」の署名がある。

技法・様式

1957年のタイム誌の記事によれば、画家は1910年の夏、フランス東部オート=サヴォワのアヌシー湖のほとりで制作を始めた。モデルは朝8時半に冷たい水に入り、初めて入ったとき、寒さから身を守ろうと思わず体をすくめた。その姿に心を奪われた画家は「動かないで」と叫んだという。制作はゆっくりで、1回のポーズは30分ほど。ポーズはその後の夏にも続き、9月のある朝に絵が仕上がって、その日にちなんで題が付けられたという。1961年のアメリカン・ヘリテージ誌の記事も、湖の岸辺で早朝の日の光のもとで描かれたとする(戸外制作)。同じ記事によれば、画家は優美な肖像画を描く一方で、湖や川で水浴びをする若い女性の裸体を、柔らかな薔薇色がかった灰色の調子で数多く描いていた。

来歴

タイム誌によれば、サロンで名誉賞を得たものの、フランスでは騒ぎにならず、買い手もつかなかった。アメリカン・ヘリテージ誌によれば、1913年5月、ニューヨーク悪徳抑止協会の書記アンソニー・コムストックが、西46丁目の画商ブラウン商会の窓に飾られた本作の複製を見とがめ、店員に取り下げさせた。昼食から戻った支配人はすぐに元に戻し、騒ぎは全米の新聞の一面を飾った。ワシントンの夕刊紙イヴニング・スターは同年5月14日、同地の画商の窓に飾られた本作をめぐって苦情を受けた連邦検事が、取り締まりを拒んだと報じている。絵は同じ1913年にロシアの富豪が1万ドル相当で買ってモスクワへ運び、行方がわからなくなった。1935年、パリの石油王カルースト・グルベンキアンの収集にあることが、UP通信によって突き止められた。のちにニューヨークの画廊に渡り、所蔵館の記録では、1957年にウィリアム・コックス・ライト夫妻の寄付による購入として収蔵された。所蔵番号57.89。同館は同年9月、重要な新収蔵品のための大ホールの階段下に本作を飾った。2026年9月時点で展示室には出ていない。

意義

アメリカン・ヘリテージ誌の記事は、この騒ぎを、1843年にハイラム・パワーズの彫刻《ギリシャの奴隷》が公開されて以来、アメリカで最も激しい、裸体と芸術と道徳をめぐる論争と呼ぶ。シカゴの市会議員は市内での公開を認めないと言い、郵便局は本作の絵はがきの郵送を禁じた。一方、シカゴの警察の取り締まりをめぐる裁判で、第1地区控訴裁判所は「絵は猥褻ではない。ただし、この絵が受けてきた商売への利用の多くについては、そうは言えない」とした。複製は菓子の箱や葉巻の帯、時計の鎖飾りにまで使われ、寄席の出し物やワルツの曲も生まれた。画家は複製から一銭も得ず、「葉巻の一箱さえ送ってくれる気のきいた人はいなかった」とこぼした。タイム誌は1957年、のちの世代はこの絵をまったく無害なものとみて、なぜあれほど騒がれたのかと首をかしげていると書いた。