《絵画の寓意としての自画像》
- 作者
- アルテミジア・ジェンティレスキ
- 制作年
- 1638–1639年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 98.6 × 75.2 cm
- 所蔵
- ロイヤル・コレクション
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- イタリア・バロック絵画
茶色の地を背に、緑の服に茶色の前掛けをした女性が身を乗り出し、右手の筆を高く掲げる。左手にはパレット。袖をまくった腕はたくましく、乱れた髪の首もとには、仮面を下げた金の鎖がかかる。
概要
《絵画の寓意としての自画像》(英: Self-portrait as the Allegory of Painting (La Pittura))は、イタリアの画家アルテミジア・ジェンティレスキが1638〜1639年頃に描いた油彩画である。縦98.6センチ、横75.2センチのキャンバスで、イギリス王室のロイヤル・コレクションが所蔵する。絵筆とパレットを手にした自らの姿を、絵画の擬人像「ピットゥーラ」に重ねた作品である。
画面の読み解き
所蔵館の解説によれば、画家は自らを左向きの横顔で、膝上までの姿に描く。光は左上から差し、仰ぎ見る顔と首、高く上げた右腕を照らす。黒髪は後ろでまとめられ、ほつれた毛が額やうなじにかかる。上げた右手に筆を持ち、左手にはパレットと何本かの筆を持つ。背後の茶色の部分は、背景とも、これから描こうとするまっさらなキャンバスとも解される。画家は顔料をすりつぶす石の台にもたれ、その面には左腕が映る。緑の服の上に絵具で汚れた茶色の前掛けをつけ、袖をまくり上げて筋肉の張った前腕を見せ、身を乗り出して対象を見つめる。首からは長い金の鎖が下がり、先には模倣を表す仮面がつく。乱れた髪と、色が移ろうような玉虫色の服も、絵画の擬人像の伝統的な持ち物である。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。所蔵館によれば、左腕に沿って下描きの線があり、腕はほとんどほのめかす程度の、速く確かな筆で描かれている。茶色の部分は下地を施したキャンバスのように見え、もとから薄く塗られていたが、摩耗している。画家は塗り残した地を影として生かし、とくにまくり上げた右袖では、白の流れるような筆の跡が、むき出しの茶色の地と出会う。赤外線とX線による調査では右手の指の位置が異なり、描きながら人差し指を長くしたことがわかる。この難しい姿勢の自画像は、向かい合わせた2枚の鏡を使って描いたのかもしれないが、描き直しは少ない。
来歴
所蔵館によれば、アルテミジアは1638年にイギリス王チャールズ1世に招かれ、1626年からイギリスで働いていた父オラツィオのもとに加わった。本作は、1638年から1641年頃までの短い滞在のあいだに描かれたとみられる。王の目録には絵画の寓意の像として記された。1630年に画家が収集家カッシアーノ・ダル・ポッツォに送ると約束した自画像を本作とみる研究者もいるが、それは失われ、本作は渡英後に仕上げた別の作とみる説もある。1649年の王の処刑後に所蔵品の多くが売られたが、本作は1660年の王政復古で王室に戻った。
意義
所蔵館によれば、画家は当時の図像集であるチェーザレ・リーパの『イコノロジア』に従った。そこでは絵画は、乱れてねじれた豊かな黒髪、想像力を示す弓なりの眉をもち、口を布でふさがれ、首に仮面を下げた金の鎖をかけた美しい女性とされる。アルテミジアは、絵画が物言わぬことを表す口のふさぎと、仮面の「模倣」の銘を省いた。自画像と寓意画を一つに重ねる像は、同時代の男性の画家には描けないもので、画家の地位を高める17世紀の議論にも加わる作品である。2020年に本作を借りて展覧会を開いたロンドン・ナショナル・ギャラリーは、長く画業の頂点とみなされてきたとする。