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《病めるバッカス》

Bacchino malato
《病めるバッカス》カラヴァッジョ
Wikimedia Commons / ボルゲーゼ美術館 / Public domain 拡大して見る ⌕
PLATE
作者
カラヴァッジョ
制作年
1595年
素材
キャンバス / 油絵具
寸法
67 × 53 cm
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蔦の冠をかぶった若者が、肩をあらわにして振り返り、白いブドウの房を手にこちらを見る。顔と唇は青白く、手前の石の台には、黄色い桃が2つと黒いブドウの房が置かれている。

概要

《病めるバッカス》(伊: Bacchino malato)は、カラヴァッジョが1595年頃に描いた油彩画である。縦67センチ、横53センチのキャンバスで、ローマのボルゲーゼ美術館が所蔵する。酒と酩酊の神バッカスの姿をした若者を、きわめて写実的に描く。所蔵館によれば、画家が自分の姿を描いた可能性があるとされ、館は《バッカスに扮した自画像(病めるバッカス)》(Autoritratto in veste di Bacco)の題で展示している。研究者はみな、本作をカラヴァッジョの知られる作品のうち最も早いものの一つ、あるいは最初の一点と認めている。のちのイタリア・バロック絵画を切り開く画家の出発点にあたる。

画面の読み解き

暗い背景の前で、蔦の冠をかぶった若者が、白い布を肩から掛けて背を見せ、体をひねって振り返る。所蔵館は、この斜め後ろからの構えを珍しいものとしている。右手に掲げた白いブドウの房はみずみずしいが、若者の肌は青みを帯び、唇にも血の気がない。手前の灰色の石の台には、黄色い桃が2つと黒いブドウの房、ブドウの葉が置かれ、腰に巻いた暗い色の帯が台の上に垂れている。背景は暗いが、1600年前後から見られるテネブリズムほど強い明暗の対比はなく、光は若者の肩と顔に穏やかに当たっている。

技法・様式

所蔵館によれば、1642年に伝記作家ジョヴァンニ・バリオーネは、カラヴァッジョが「鏡に映した自分を描いた小さな絵」を何点か作り、その最初が「いろいろなブドウの房を持つバッカスで、たいへん丁寧に描かれているが、描き方はやや硬い」と書いた。1948年にアルド・デ・リナルディスがこれを本作と結びつけ、今では研究者のほぼ全員が同じ見方をとる。構えには、ミラノでの最初の師シモーネ・ペテルツァーノの手本の影響が指摘され、ロンバルディア地方の自然主義を受け継いだ描き方が見られる。制作年は、ロンギの1589〜1590年説や、デニス・マーンの1590年代初めとする説を経て、1593年頃とされることが多かったが、画家のローマ到着を1595年頃とみる近年の研究から、より後とする見方も出ている。

来歴

所蔵館によれば、同時代の医師ジュリオ・マンチーニは、ローマに出てきたカラヴァッジョが身を寄せたパンドルフォ・プッチの家で本作が描かれたと書き留めている。本作は画家ジュゼッペ・チェーザリ(カヴァリエール・ダルピーノ)の手元にあったが、1607年、火縄銃の不法所持を問われたチェーザリから、同じカラヴァッジョの《果物籠を持つ少年》を含む100点余りとともに没収され、教皇パウルス5世が甥のシピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿に与えた。のちの目録ではサテュロスの絵とされたり、ルドヴィコ・カラッチの作とされたりしたが、1927年にロベルト・ロンギがカラヴァッジョの作と改めて示した。1902年に国が買い上げた。所蔵番号534。現在は第8室(シレノスの間)に展示されている。

意義

《病めるバッカス》という通称と、画家が扮した自画像とする読みは、ロンギに由来する。ロンギは肌と唇の色を、画家が病み上がりだった体験の表れとみた。所蔵館は、カラヴァッジョがローマのコンソラツィオーネ病院に入院した記録に結びつける説を紹介している。顔色は悪い修復のせいだとする説もあったが、2001年の調査で退けられた。ほかにも、五感のうちの味覚や憂鬱の寓意、キリストの受難の予示とみる説などが出された。近年は、ブドウをつまむ手を酒の神による創造のしぐさと読み、鳥がついばもうとしたほど本物そっくりのブドウを描いた古代の画家ゼウクシスの逸話に重ねて、画家の迫真の技の宣言とみる解釈もある。