《ライ麦畑》
黄金色に熟れたライ麦の畑が地平線まで広がり、その中に背の高い松が点々と立つ。右手前には一本の巨木がそびえ、中央には枯れた松も見える。手前の草地から畑の奥へ轍の道が曲がりながら続き、淡い青空には白い雲が湧き、鳥の群れが舞う。
概要
《ライ麦畑》(露: Рожь)は、ロシアの風景画家イワン・シーシキンが1878年に描いた油彩の風景画である。縦107.5センチ、横188センチの大きなキャンバスで、モスクワのトレチャコフ美術館が所蔵する。所蔵館はシーシキンの「名高い風景画」として本作を挙げ、熟れたライ麦の畑と松の木立で、ロシアの大地の豊かさを記念碑的に描いた作品とする。
画面の読み解き
所蔵館によれば、画面の構図ははっきりとした骨組みをもつ。おごそかに並ぶ松の列柱が、淡い青空の下に横たわる熟れたライ麦の畑の水平線と釣り合い、松はくっきりとした影絵のように空に浮かび上がる。英語版ウィキペディアによれば、畑の中の大木は畑を拓くときに切り残された森の名残で、道の先の麦の間には二人の人物の頭がかすかにのぞき、道端の草花の上をツバメがかすめ飛ぶ。遠くの空には雲が湧いている。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。所蔵館によれば、絵の三つの基本色、黄・青・緑は、画面の三つの要素である麦・空・木にそれぞれ対応する。実った麦は人の労働の成果であり、豊かさと天の恵みの象徴でもある。一本一本に個性をもつ松は生き物のように描かれ、シーシキンをめぐる文献では、ヴァスネツォフの描いた勇士たちになぞらえられてきた。
来歴
英語版ウィキペディアによれば、本作は画家の故郷エラブガに近いレカレヴォ村のライ麦畑を、1877年に娘と旅したときに描いた鉛筆の素描をもとにする。別の素描には「広がり、空間、土地。ライ麦。神の恵み。ロシアの富」という書き込みが残る。完成作は1878年の第6回移動派展に出品され、所蔵館によれば同年にパーヴェル・トレチャコフが作者から購入した。所蔵番号はИнв.837。
意義
所蔵館によれば、シーシキンの主題は森、それも常緑の針葉樹の森であり、好んだ季節は夏、時刻は真昼だった。サヴラーソフやワシーリエフと違って移ろう自然の状態には関心を示さず、揺るぎない成熟した形を求めたところに、画家独自の「古典主義」がある。抒情ではなく叙事詩的で記念碑的なその世界は、大地、国、民衆、命と空の恵みという価値の上に築かれ、本作はその代表とされる。