《オフィーリア》
柳が覆いかぶさる小川に、銀の刺繍のドレスを着た娘が仰向けに浮かび、口を開いて両手を水面から差し上げる。まわりには摘んだ花が流れ、岸辺には葦やイラクサ、野の花が細密に描き込まれている。
概要
《オフィーリア》(英: Ophelia)は、ジョン・エヴァレット・ミレーが1851年から1852年にかけて描いた油彩画である。縦76.2センチ、横111.8センチのキャンバスで、ロンドンのテート・ブリテンが所蔵する。シェイクスピアの『ハムレット』で、花を摘むうちに川に落ち、歌いながら沈んでいく娘オフィーリアを描く。所蔵館によれば、1894年のヘンリー・テートの寄贈に含まれた同館の最初期の収蔵品の一つで、所蔵するラファエル前派の作品の中でも特に人気が高い。
画面の読み解き
画面の中央で、銀の刺繍のドレスを着たオフィーリアが川面に仰向けに浮かぶ。口をわずかに開き、両手を水面から差し上げている。ドレスの上や手のまわりには、摘んだ花が流れていく。岸からは柳が身を乗り出し、水辺には葦やイラクサ、野の花が茂る。所蔵館によれば、この場面は舞台には現れず、王妃ガートルードがオフィーリアの兄レアティーズに語る台詞で伝えられる。オフィーリアは、父ポローニアスが恋人ハムレットに殺されたことで正気を失い、若くして死ぬ。
技法・様式
所蔵館によれば、ミレーは本作を二つの場所で描いた。背景の風景はサリー州ユーエルを流れるホッグズミル川の岸辺で描き、オフィーリアの人物はロンドンのガワー・ストリートのアトリエで描いた。当時は戸外で素描をとり、アトリエで大作に仕上げるのがふつうだったが、ラファエル前派の画家たちは戸外制作で作品を仕上げた。花は一輪ずつ実物から描かれ、咲き誇る花だけでなく、枯れて折れた葉も描き込まれている。風景を5か月にわたって描いたため、咲く季節の違う花が隣り合う。花は劇中に出てくるか、象徴の意味によって選ばれた。首のまわりのスミレは誠実さと若い死、ドレスに浮かぶパンジーは「思い」と報われない愛、ヒナギクは無垢、覆いかぶさる柳は見捨てられた愛を表す。
来歴
所蔵館によれば、モデルは19歳のエリザベス・シダルで、ミレーの友人ウォルター・デヴェレルが、帽子店で働いていた彼女を見いだした。シダルは水を張った浴槽の中でポーズをとり、水を温めるために下にランプが置かれた。あるとき火が消えても、絵に没頭したミレーは気づかず、シダルは体を冷やして病気になったが、まもなく回復した。銀の刺繍のドレスは、ミレーが古着屋で4ポンドで買ったものである。シダルはのちの1860年、ミレーの友人ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティと結婚した。本作は1894年、ヘンリー・テートの寄贈で所蔵館に入った。所蔵番号N01506。現在はテート・ブリテンの第10室に展示されている。
意義
所蔵館によれば、本作は当時、自然を最も正確かつ入念に写した研究の一つとみなされた。ミレーの息子ジョンは、学生を野外に連れて行けなかった植物学の教授が、代わりにこの絵の花を見せに連れてきたと書いている。所蔵館は本作を、国民に最も愛される絵の一つで、館で最もよく売れる絵はがきの一つでもあるとする。2012年にテート・ブリテンで始まった「ラファエル前派 ヴィクトリア朝の前衛」展では、ワシントン、モスクワ、東京の森アーツセンター、トリノを巡回した。