《スフィンクスの謎を解くオイディプス》
暗い洞窟の入口で、裸の青年オイディプスが岩に片足をかけ、膝に肘をついて、闇に浮かぶスフィンクスへ指を向ける。足もとには人の骨が散らばり、遠くの洞窟の外では、一人の男がおびえて逃げていく。
概要
《スフィンクスの謎を解くオイディプス》(仏: Œdipe explique l'énigme du sphinx)は、フランスの画家ドミニク・アングルが1808年に描いた油彩画である。縦189センチ、横144センチのキャンバスで、ルーヴル美術館が所蔵する。ローマのフランス・アカデミーの給費留学生としてパリへ送った作品で、ギリシア神話の英雄オイディプスが、スフィンクスのかける謎に答える場面を描く。
画面の読み解き
所蔵館の目録によれば、舞台は洞窟の中で、裸のオイディプスが横向きに立ち、片足を岩にかけて膝に肘をのせ、スフィンクスへ指を向ける。スフィンクスは横顔と前脚、羽根だけがのぞく。オイディプスは右手に2本の槍を持ち、右肩から垂れた布が腹と腿のあいだにかかる。左下の隅には人の足の裏が見え、遠く洞窟の口では裸の男が逃げていく。ロンドン・ナショナル・ギャラリーによれば、スフィンクスは女の顔と肩、ライオンの体、鳥の翼をもつ怪物で、テーバイの町に入ろうとする旅人に「声をもち、朝は四本足、昼は二本足、夕べは三本足で歩くものは何か」と問う。オイディプスは、それは人間だと正しく答える。足もとの骨は、答えられずに殺された者の末路を示している。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれ、左下寄りに「I.Ingres. Pingebat. 1808.」と署名と年記がある。ロンドン・ナショナル・ギャラリーによれば、最初の作はローマで描いた人体の習作で、パリの学士院の会員による審査のために送られた。決まりどおりオイディプスは生きたモデルを写したが、姿勢はルーヴル美術館にある古代彫刻《サンダルの紐を結ぶヘルメス》に拠る。体は幾何学的な形の組み合わせとして示され、左腕と腿と胸がつくる三角形を、上腕と前腕が逆さに映す。人物の横顔と奥行きの浅い空間は、古代の浮彫りやギリシアの壺絵を思わせる。
来歴
所蔵館によれば、本作は1808年にローマのフランス・アカデミーの留学生の成果としてパリへ送られ、おそらく1827年のサロンの少し前に手を加えられて、同年のサロンに出品された(目録には載っていない)。ロンドン・ナショナル・ギャラリーによれば、画家はのちにキャンバスを継ぎ足して構図を描き直しており、同館の小さな作(1826年頃)はその描き直しのための下絵とみられる。1878年、デュシャテル伯爵夫人エグレ・ロザリーの遺贈で所蔵館に入った。所蔵番号はRF 218。
意義
ロンドン・ナショナル・ギャラリーによれば、人間の知恵が怪物を打ち負かすという主題は画家の心をとらえ、本作は、騎士が海の怪物から王女を救う《アンジェリカを救うルッジェーロ》とも響き合う。同時に、自らの運命に向き合う男の絵でもある。オイディプスはこののちテーバイの王となり、そうとは知らずに実の母イオカステと結ばれる。その悲劇は、ソフォクレスの『オイディプス王』の題材となった。