《ノクターン:黒と金色—落下する花火》
暗い夜空に、金色の火の粉が雨のように降りそそぐ。左には黒々とした木立、中ほどには白い煙が立ちのぼり、明かりがにじむ。手前の水辺には、花火を見上げる人影がかすかに浮かぶ。
概要
《ノクターン:黒と金色—落下する花火》(英: Nocturne in Black and Gold – The Falling Rocket)は、アメリカ出身の画家ジェームズ・マクニール・ホイッスラーが1875年に描いた油彩画である。縦60.3センチ、横46.7センチの板に描かれ、アメリカのデトロイト美術館が所蔵する。ロンドンのクレモーン遊園の花火を描いた夜景で、所蔵館は「おそらくホイッスラーの最も悪名高い絵」と呼ぶ。
画面の読み解き
グラスゴー大学のホイッスラー絵画目録によれば、縦長の夜の情景で、左と手前に、花火を見る人々の群れや人影がかすかに見える。中景の左には明かりを映す池があり、中央には煙が立ちのぼる。右上には明かりに照らされた尖った塔が2本そびえ、その上の空に打ち上げ花火の火の粉が滝のように降る。塔は、テムズ川沿いのチェルシーにあった遊園の、花火の打ち上げ台に立つ小塔である。画家は裁判で「遠くから見たクレモーンで、落ちていく花火とほかの花火を描いた」と説明し、右側の黒い印は色の釣り合いを崩さない位置に置いた自分の組み文字だと述べた。一方で、特定の場所の肖像ではなく、持ち帰った芸術的な印象を描いたとも語っている。
技法・様式
板に油彩で描かれる。同じ目録によれば、赤茶色の下地の上に薄く絵具を置き、上部には幅7〜14ミリの平筆を使い、橙や緑の火の粉は一粒ずつずっと細い筆で置いた。手前の池の暗い水は、低い壁の上に片脚を上げて立つ人物を塗り残して描かれ、人物の色は背景の絵具だけである。画家は、1日と次の日の一部で描き上げたと裁判で証言した。所蔵館によれば、はかなく言葉にしがたい都会の見せ物である花火は、美しいが意味を持たないがゆえに、夜を描く「ノクターン」の連作にふさわしい主題だった。本作は、沈んだ気分と繊細な色を特徴とするその連作の典型である。
来歴
1875年にロンドンのダドリー・ギャラリーで初めて展示され、1877年のグローヴナー・ギャラリーの第1回夏季展に200ギニーの値で出品された。批評家ジョン・ラスキンはこれを「公衆の顔に絵具壺を投げつけて」200ギニーを求める気取り屋と書き、ホイッスラーは名誉毀損で訴えた。1878年11月の裁判に本作は証拠として持ちこまれ、画家は勝訴したが、賠償は1ファージングにとどまった。その後は借金の担保として画商に預けられ、1892年に画家がニューヨークのサミュエル・アンターマイヤーに840ポンドで売った。1940年の同家の売り立てを経て、1946年にデクスター・M・フェリー・ジュニアが同館に寄贈した。所蔵番号は46.309である。
意義
グラスゴー大学の目録によれば、本作はラスキンの批判の主な標的とみなされてきた。裁判で弁護士に、2日の仕事に200ギニーを求めるのかと問われた画家は、「いいえ。生涯の仕事で得た知識に対して求めるのです」と答えて拍手を浴びた。研究者リンダ・メリルは、ホイッスラーの絵のなかで最も抽象的で、それゆえ最も理解しにくい作品とする。所蔵館によれば、アメリカの画家たちにとってこの主題は本質的に近代的なもので、ある批評家は、言葉で伝えられる考えからできるだけ切り離した絵画の抽象的な訴えを、このノクターンが証し立てたと述べた(芸術のための芸術)。