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《アブサン》

Dans un café
《アブサン》エドガー・ドガ
Wikimedia Commons / オルセー美術館 / Public domain 拡大して見る ⌕
PLATE
作者
エドガー・ドガ
制作年
1875–1876年
素材
キャンバス / 油絵具
寸法
92 × 68.5 cm
流派
印象派
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パリのカフェで、女が緑色のグラスを前に目を落とし、隣の男はパイプをくわえて外を見る。二人のあいだに会話はない。手前に重なる大理石の卓が、見る者と場面のあいだに距離を置いている。

概要

《アブサン》(仏: Dans un café、別題 L'Absinthe)は、エドガー・ドガが1875年から1876年にかけて描いた油彩画である。縦92センチ、横68.5センチ。パリのオルセー美術館が所蔵する。舞台はピガール広場のカフェ「ヌーヴェル・アテーヌ」で、印象派の画家たちが集まった店である。館の登録名は《カフェにて、通称アブサン》で、所蔵番号はRF 1984。

来歴

1876年の第2回印象派展に出品されると、醜く不快だとして酷評された。同年ロンドンの画商シャルル・デシャンの画廊で、ブライトンの収集家ヘンリー・ヒル大尉が買い取る。ヒルの没後、1892年2月のロンドンの競売でスコットランドの画商アレグザンダー・リードが顧客アーサー・ケイのために落札したが、ケイはこの絵を持てあまし、1893年4月にパリの画商へ手放した。ロンドンで公開された際には、ウォルター・クレインら当時の英国の画家や批評家から道徳上の非難を浴び、絵そのものよりも「アブサンへの警告」として語られた。のちにイザック・ド・カモンド伯爵の手に渡り、1911年の遺贈によって国の所蔵となる。

画面の読み解き

女は緑がかった一杯を前にして肩を落とし、視線は宙にある。隣の男はパイプをくわえ、画面の外へ目を向ける。二人は並んでいながら交わらない。モデルは女優のエレン・アンドレと、画家で版画家のマルスラン・デブータンで、二人とも酒に溺れた人物ではなく、ドガに頼まれて座った。画面の手前には大理石の卓が斜めに二つ重なり、見る者の入り口をふさぐ。人物は中央から右へ押しやられ、左には何も置かれない空白が広がる。背後の鏡に映る影が、店の奥行きをわずかに示すだけである。

技法・様式

画面を斜めに横切る卓の線と、大きく取られた空白の配置には、浮世絵の構図から学んだ見方が働いている。人物を中心から外し、前景の事物で視界を遮る手法は、写真のスナップにも通じる。色は灰色と茶を基調に抑えられ、グラスの緑と女の髪のリボンだけがわずかに目を引く。同時代のカフェの情景を主題とする点で風俗画にあたるが、逸話を語らず、時間の止まった一瞬だけを見せている。

意義

発表当時の非難は、道徳を絵に求める見方の強さを示している。ジョージ・ムアは女を「娼婦だ」と評したが、のちに自著で撤回し、「この絵は一個の芸術作品にすぎず、酒とも社会学とも関わりはない」と書き直した。都会の孤独をそのまま画面に置くこの見方は、のちのホッパー《ナイトホークス》のような20世紀の絵にまで届いている。