《アイリス》
- 作者
- フィンセント・ファン・ゴッホ
- 制作年
- 1889年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 74.3 × 94.3 cm
- 所蔵
- J・ポール・ゲティ美術館
- 時代
- 世紀末〜ポスト印象
- 流派
- ポスト印象派
画面いっぱいに、青紫のアイリスの花と、剣のように伸びる青緑の葉が群がる。花は画面の縁からあふれ、左の群れには一輪だけ白い花が咲く。手前には赤茶色の土、奥には黄緑の草地と橙色の花が広がる。
概要
《アイリス》(英: Irises)は、フィンセント・ファン・ゴッホが1889年5月、南フランスのサン=レミ=ド=プロヴァンスで描いた油彩画である。縦74.3センチ、横94.3センチ。ロサンゼルスのJ・ポール・ゲティ美術館が所蔵する。所蔵館によれば、自ら療養院に入ったゴッホが最初の1週間のうちに描き始めた作品で、療養院の庭に咲くアイリスを、じかに見ながら描いた。ポスト印象派の画家ゴッホの色彩をよく示す一点である。
画面の読み解き
画面いっぱいに、青紫のアイリスの花と、剣のように伸びる青緑の葉が群がる。花は画面の上下左右の縁からはみ出し、花びらは波打ち、ねじれ、巻き込む線でふちどられて、一つとして同じ形のものがない。左の群れの中には、一輪だけ白いアイリスが咲いている。手前の左下には赤茶色の土がのぞき、奥の黄緑の草地には橙色の花が点々と散る。右下の隅に、下線を引いた「Vincent」の署名がある。
技法・様式
所蔵館は、花が画面の縁からあふれる大胆な切り取り方と、鮮やかな色の広い面で画面を分ける構成に、日本の木版画の装飾的な模様の影響を見ている(ジャポニスム)。本作のための素描は知られておらず、画家自身は習作と考えていた。一輪ごとの動きと形は、注意深い観察にもとづいて描き分けられている。2024年に同館が発表した調査によれば、ゴッホは青と赤の絵具を混ぜて花の紫をつくっていたが、光に弱い赤のゼラニウム・レーキが大きく退色したため、手紙に「紫のアイリス」と書いた花は、今では青く見える。乾く前の絵具に紛れ込んだ植物の小さな球果は、戸外で描いた証拠とされる。
来歴
弟テオはすぐにその出来を認め、1889年9月のアンデパンダン展に出品した。テオは兄への手紙で「遠くからでも目を引く。空気と生命に満ちた美しい習作だ」と書いている。所蔵館の記録によれば、画材商ジュリアン・タンギーを経て、1891年に美術批評家オクターヴ・ミルボーが購入した。ゴッホを最も早く支持した一人であるミルボーは、「花の繊細な本質を、彼はなんとよく理解していることか」と書き残した。その後、ベルネーム=ジュンヌ画廊や服飾デザイナーのジャック・ドゥーセの夫妻らを経て、1947年にアメリカの収集家ジョーン・ホイットニー・ペイソンが入手する。1980年には、夫人の収集を紹介する展覧会で京都市美術館と東京の伊勢丹美術館に出品された。
意義
1987年11月11日、ニューヨークのサザビーズの競売で、手数料込み5,390万ドルで落札され、美術品の競売の最高額を更新した。買い手はオーストラリアの実業家アラン・ボンドだったが、作品は1990年にサザビーズへ戻り、同年、相対取引でゲティ美術館が購入した。所蔵番号90.PA.20。所蔵館によれば、ゴッホは死までの最後の1年を過ごした療養院で130点近い絵を描いており、本作はその最初期の一点にあたる。