《毛皮をまとったエレーヌ・フールマン》
- 作者
- ピーテル・パウル・ルーベンス
- 制作年
- 1636–1638年
- 素材
- 板 / 油絵具
- 寸法
- 178.7 × 86.2 cm
- 所蔵
- ウィーン美術史美術館 (GG 688)
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- フランドル・バロック絵画
暗い背景の前に、若い女性が黒い毛皮のガウンだけを肩にかけて立つ。両腕で胸と腹を隠し、白く柔らかな肌が濃い毛皮と対照をなす。足もとには赤い布が敷かれ、頬と唇にもほのかな赤みが差している。
概要
《毛皮をまとったエレーヌ・フールマン》は、フランドルの画家ピーテル・パウル・ルーベンスが1636年から1638年頃に描いた油彩画で、ウィーン美術史美術館が所蔵する。オーク材の板に描かれ、縦178.7センチ、横86.2センチ。モデルは画家の2番目の妻エレーヌ・フールマン(1614〜1674)で、所蔵館によれば、伝わる題「het pelsken(小さな毛皮)」はルーベンス自身の呼び名に由来する。
画面の読み解き
暗い背景の前に、エレーヌが黒い毛皮のガウンだけをまとって立つ。所蔵館の解説によれば、毛皮は官能的な体を一部しか覆わず、彼女は少し左へ踏み出すようにみえながら、上半身は静かに保たれている。胸と腹を両腕で隠す姿勢は、古代の恥じらいのヴィーナスの型を思わせる。慎み深く隠しているのか、なまめかしくほのめかしているのかは、見る者に委ねられる。足もとの赤い布は、ほのかに桃色を帯びた肌と響き合い、紅潮した頬と唇でいっそう強まる。
技法・様式
所蔵館によれば、ルーベンスはここで純粋な肖像画を越え、愛と美の女神ヴィーナスの像を重ねている。同時に、敬愛する先人の作品も引用した。本作の少し前、ルーベンスはイングランド王の収集にあったティツィアーノの《毛皮の女》(現在は同館所蔵)を見て模写する機会を得ており、白く柔らかな肌と、暗くビロードのような毛皮との対比はそこで一度描かれていた。所蔵館は、両作品ともこの対比を繊細にとらえていると述べる。
来歴
所蔵館によれば、ルーベンスは本作を若い妻への私的な贈り物として遺言で彼女に遺した。1640年のルーベンスの遺言と1658年のエレーヌの遺言に記され、彼女は本作を売らず、子どもたちが受け継いだ。ウィーンの画廊の目録に現れるのは1730年からである。現在は同館の絵画館第20室に展示されている。
意義
所蔵館の解説によれば、53歳のルーベンスは1630年12月、アントウェルペンの絹商人ダニエル・フールマンの16歳の娘エレーヌと結婚した。最初の妻イザベラ・ブラントは1626年にペストで亡くなっていた。ルーベンスは友人ペーレスクへの手紙で、宮廷の女性をすすめられたが貴族の高慢を恐れ、「絵筆を取る私を見ても顔を赤らめない妻」を選んだと書いている。親しい友人たちでさえ、二人の大きな年の差をほのめかさずにはいられなかったという。